研究課題/領域番号 |
21H00508
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
横井 孝 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (60166866)
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研究分担者 |
澤山 茂 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (00078213)
大和 あすか 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 助手 (30823752)
佐藤 悟 実践女子大学, 文学部, 教授 (50178729)
上野 英子 実践女子大学, 文学部, 教授 (60205573)
日比谷 孟俊 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (60347276)
舟見 一哉 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80549808)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 源氏物語 / 紙質 / 打紙 / 非破壊 / デジタルマイクロスコープ / 蛍光X線分析器 |
研究実績の概要 |
『源氏物語』の現行テキストよりも古態と推測されながら、断簡という形で散在するため、軽視ないし無視されてきた写本を、非破壊の方法を用いて信頼性を獲得し、より原作に近接するテキストの再建を目指すというのが本研究の課題である。特に、藤原為家を伝称筆者とする「為家本」の紙に注目し、3Dデジタルマイクロスコープ・分光光度計・蛍光X線分析器によって年代推定を行うだけでなく、それが極めて良質の紙であることを科学的に明らかにした。 2021年度は初年度であるため、「為家本」断簡10点を基本的試料とし、それに対比するために、実践女子大学図書館所蔵の写本8点230冊から無作為サンプル抽出した箇所を上記光学機器によって調査し、「為家本」が特に非常に丹念な「打紙」されている事実を見出し、該本が特別に選別された料紙に書写された特別な写本であったことを検証し、3篇の論考を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非破壊の方法によって、写本の構成要素である紙の成立年代を推定することは、マイクロスコープによる拡大画像や蛍光X線分析による元素組成を組み合わせても数多くの検証過程を要すると当初は思われたが、料紙に填料である米粉が混入するか、あるいは紙繊維の素材として楮・雁皮以外の何が使われるかによって、おおよそはかなり明確に区別できることが判明した。 すなわち、特殊な例以外、料紙への填材としての米粉を混入させる紙は室町時代末期以降であることが明確に理解されたこと、また3~5μmと極めて微小の米粉を偏光十字によって発見する技術が初年度から開発できたことなどが当初の予測を大幅に上回った。 上記の填料の問題に加え、特に『源氏物語』写本における「打紙」の多寡によって、おおまか作品形成の年代、制作者における写本の社会的環境・位置づけについての推定を行い得ることも新事実として判明した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は『源氏物語』写本の年代推定によって、等閑視されてきた河内本を再検討、再評価しようとするものであるが、研究の進展により、さまざま写本・版本にも応用可能の方法と考えられる。 『源氏物語』特に「為家本」の検証を実践女子大学所蔵のものに限定せず、ひろく諸方に散在する古筆切・写本を調査してゆくことはもとより、隣接する他作品の検証を行うことによって、こうした非破壊の調査の有効性を検証してゆく。その一つが、奈良時代の紙と目される伝聖武天皇筆『賢愚経』(略称「大聖武」)の料紙が中国産か国産かとされてきたことについての問題、その二として、平安時代物語『夜の寝覚』欠巻部古筆切の解明の問題など、並行拡大して検討してゆく。
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