研究課題/領域番号 |
21H00555
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
諫早 庸一 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 助教 (90831397)
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研究分担者 |
大貫 俊夫 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (30708095)
四日市 康博 立教大学, 文学部, 准教授 (40404082)
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
宇野 伸浩 広島修道大学, 国際コミュニティ学部, 教授 (60310851)
西村 陽子 東洋大学, 文学部, 教授 (70455195)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 14世紀の危機 / モンゴル帝国 / 環境史 / ユーラシア史 / 中世気候異常期 / 小氷期 / 黒死病 |
研究実績の概要 |
2021年度研究実績の概要としては、まずは「気候」を主題として7月に開催されたLeeds International Medieval Congressに諫早と中塚が参加し、「14世紀の危機」をはじめとする中世期の環境史研究について現状視察を行った。特にプライザー=カペラーによる基調講演「気候変動の十字軍?」は、今や環境史は気候変動と地域の生態系および人間社会との相互作用(interplay)を描くべき段階に来ていると主張するもので、我々のプロジェクトの今後にとっても資するところが多くあった。「中世気候異常期」から「小氷期」への大きな気候の転換期にあって、人間と自然とは、新たなエコ・システムを生み出していった。プロジェクトの主眼たるモンゴル帝国に関しても、帝国による人的・物的資源の移動を、新たなエコ・システムの構築という観点から捉えることができる。2回のミーティングでは、先述のプライザー=カペラーのドイツ語2巻本『初めての収穫と大きな飢饉』および『長い夏と小氷期』について大貫が解説を行い、メンバー内で理解を深めた。これに加えて、「14世紀の危機」プロジェクトについて重要だと思われる著作について、中塚、宇野、西村、長瀬がそれぞれに書評を行い、諫早が総括する特集「一四世紀の危機:研究の現在」を『史苑』82巻2号で展開した。書評とした研究書はそれぞれ、トロエ『年輪で読む世界史』、白石『モンゴル帝国の誕生』、葛ら『中国歴朝気候変化』、ブレット『初期イスラーム期イランにおける綿花・気候・ラクダ』であった。この特集号の総括において諫早は、「14世紀の危機」の〈13世紀的文脈〉とも言うべき事象に注意を払うべきことを主張した。気候の変動や疫病の流行はすでに前世紀から始まっており、これにより着目することで、より「14世紀の危機」の全体像に迫ることができるという理解である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度研究の進捗状況としては、当初の計画以上に進展があったということができる。その大きな理由としては、【研究実績の概要】のところで述べた特集「一四世紀の危機:研究の現在」(『史苑』82巻2号)の存在が挙げられる。基礎固めに充てていた1年目において、実質的な研究成果を出せたことは、計画以上の進展であった。さらに、1月にはこの科研プロジェクトの共催で「人文学のための古代DNAセミナー」を開催した。このプロジェクトが主眼とする「14世紀の危機」についても、ペスト/危機の流行が危機のコアの1つであるものの、その起源や拡散の詳細については依然として今後の研究に俟つところが多い。こうした状況のなかで近年、古遺伝学や古病理学といった分野の進展が著しく、こうした感染症の歴史についても旧来の理解が大きく改められつつある。この現状を踏まえ、これらの分野の先端で活躍する方々に御登壇いただき、歴史研究者のために基礎から御話しいただくことを趣旨とした会であった。会においては、例えばペスト菌(Yersinia pestis)についての最新研究のなかで黒死病の系統が出現したのは1214年から1315年の間とされていることが紹介されるなど、「14世紀の危機」プロジェクトの進捗にとっても、貴重な機会となった。加えて3月の国際学会では、諫早が“The Afro-Eurasian Crisis of the 14th Century in the Ilkhanid Context”と題した報告を行い、ヨーロッパや中国に比べて圧倒的に環境史のデータが不足している西アジアに関して、バグダードのアラビア語年代記『あらゆる出来事』が、13世紀後半のイラクにおける寒冷化の状況を伝えていることを示し、13~14世紀におけるユーラシア規模での環境史研究に可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針としては、2022年度に関しては、2023年度に開催を予定している国際シンポジウム“The Phase of Catastrophe: The Afro-Eurasian Context of the 14th Century Crisis”の準備を行う。科研メンバーの6人が月毎のミーティングで1人ずつ、自身の発表構想を報告し、全員で議論を行っていく。それと並行して、海外からの登壇者も固めていく。すでに中央ユーラシア環境史のニコラ・ディ・コスモ(前近代)とディヴィッド・ムーン(近代)とはコンタクトを取っている。他にも黒死病研究者のモニカ・グリーンやジョチ・ウルス環境史のユライ・シャミルオグル、年輪年代学者のウルフ・ブントゲンや、【研究実績の概要】のところで名前を挙げたヨハネス・プライザー=カペラーを招待することを予定している。さらにこの科研プロジェクトのコアである長期・中期・短期の3つのサイクルから危機を捉えるという観点について、これを日本史の文脈で明らかにした中塚の『気候適応の日本史』の書評会を6月13日に開催予定である。討論者として東アジア史の観点から西村が、日本中世史の観点からは佐藤雄基が登壇予定である。これに加えて「14世紀の危機」をユーラシア規模で捉えた最新の著作であるブルース・キャンベル『大遷移』の翻訳プロジェクト(みすず書房より2023年刊行予定)を進めていく。翻訳は諫早と大貫が担当し、章ごとに仮訳ができた段階で、メンバー全員に回覧してコメントをもらう形式となっている。さらに、モンゴル帝国を〈移動〉と〈環境〉の2つの軸から捉え、本プロジェクトの成果を大いに盛り込んだ著作『ユーラシア史のなかのモンゴル帝国』(みすず書房から2022年刊行予定)を諫早が完成させる予定である。
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