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2023 年度 実績報告書

「14世紀の危機」についての文理協働研究

研究課題

研究課題/領域番号 21H00555
配分区分補助金
研究機関北海道大学

研究代表者

諫早 庸一  北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 特任准教授 (90831397)

研究分担者 大貫 俊夫  東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (30708095)
四日市 康博  立教大学, 文学部, 准教授 (40404082)
中塚 武  名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
宇野 伸浩  広島修道大学, 国際コミュニティ学部, 教授 (60310851)
西村 陽子  東洋大学, 文学部, 教授 (70455195)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード14世紀の危機 / モンゴル帝国 / 環境史 / ユーラシア史
研究実績の概要

本年度は、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター2023年度夏期国際シンポジウム「崩壊の局面:アフロ・ユーラシアから「14世紀の危機」を思考する」を開催し、これまでの研究成果を国際学界で問うた。その結果として、「14世紀の危機」に関し、以下の5つの論点が浮かび上がった。1)地域的な多様性、2)時代的な多様性、3)史料の語り方の違い、4)危機の周期性、5)あらたな時代・勢力の胎動。まず1)に関して、「危機」は広大なアフロ・ユーラシア地域においては当然のことながら、各地において時間差をもって進行していた。各地の専門家たちとこのことを議論することで、その具体相が浮かび上がってきたのである。2)の論点にもなるが、概して「危機」は東から西へと進行していた。その西端にあたるヨーロッパにおいて黒死病によって「危機」が最大化する14世紀の中盤にはすでに、東方においてはモンゴル帝国が解体し、アフロ・ユーラシア全体をつないでいた交易網は寸断されていたのである。3)に関してはしかし、14世紀は「危機」の時代としてのみ語りうる時代ではないということが再確認された。14世紀前半においては依然としてアジア海域の交易は活況を呈しており、多くの史料がこのネットワーク上で活動する人々のダイナミズムを伝えている。4)は当プロジェクトの主眼でもある「危機」の周期性についての議論である。やはりユーラシアの多地域において、特に食糧危機のような災害は、それ以前に数年豊作が続いた時代の過適応の結果として生じていたことが、古気候データ・文献データの組み合わせから実証的に確認された。5)の論点に関しては、この「危機」のなかでむしろ勢力を拡大させた新興勢力に注目し、そこには人間の移動つまり人口動態が密接にかかわっていることが理解された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年度は、国際会議の開催によってこれまでの研究成果を国際的に議論することが主眼であった。しかし、本年度の成果はそれだけに留まらず、次年度に計画していた成果の刊行も、例えば諫早による総括論文の刊行という形で行われた(諫早庸一「「14世紀の危機」の語り方:ヨーロッパ到来以前の黒死病」『思想』1200号 (2024年): 9-32頁)。さらに同論文が掲載されている『思想』1200号は「危機の世紀」の題を有する特集号であり、そのなかでは、15世紀や17世紀における環境危機との比較についても議論することができた。さらに、先述の国際会議の成果の刊行についても、登壇者の1人であったニコラ・ディ・コズモ(プリンストン高等研究所)と諫早の共著という形で出版計画が進んでいる(ニコラ・ディ・コズモ & 諫早庸一『気候変動・疫病・戦争:アフロ・ユーラシアにおける「14世紀の危機」』エディンバラ大学出版局, 2025年刊行予定)。こうした点が、本研究が当初の計画以上に進展しているとした理由である。

今後の研究の推進方策

特に先に述べた5つの論点を踏まえ、最終年となる今年度は、それぞれのメンバーが下記のテーマに沿って研究成果を公表する。まずは諫早と中塚が、バグダード地域においては、1260年代末から80年代に関して顕著な寒冷化が見られることを文献および古気候データの組み合わせによって実証する。1280年代という時期は、モンゴル帝国の多地域が危機に見舞われる時代であり、政治危機の時期と全球規模での寒冷化の時期が重なっていることを示す。次に、大貫がおそらく過去2500年で最大規模のものであったとされるインドネシア・サマラス山の大噴火(1257年頃)に注目し、この火山噴火の影響はヨーロッパにおいてすら、1258年の冷夏と不作としてドイツ西部の史料にも確かに現れていることを示す。一方で宇野は東アジアに注目し、寒冷化が著しかったヨーロッパとは異なり、東アジアでは1290年から1320年まで一貫して平均気温が上がり続けることを示す。しかもこの地域において一般的に気温とは逆相関の関係にある降水量も、1320年代においては下降せず、この時期において大元ウルス(中国)領内では洪水と飢饉とが頻発していることが実証される。論点の1つとなった周期性については四日市が、ユーラシア規模にネットワークを開いた大元ウルスでは、季節移動を行う遊牧のサイクルとモンスーンに規定された海域のサイクルとが重なりあうことで、徴税や交易政策、使節派遣などに独自のリズムが生まれていたことを示す。最後に、西村はより時代を遡り、ウイグル帝国の崩壊をもたらした大旱魃が、8世紀から9世紀のウイグル・チベット・唐の三国鼎立期の東部ユーラシアにいかなる影響をもたらしたのか、そしてウイグル滅亡後の唐王朝で始まった大混乱といかなる関係を有しているのか、こうした問いについて検討を行う。

  • 研究成果

    (37件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 17件、 招待講演 18件) 図書 (8件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [雑誌論文] 「14世紀の危機」の語り方:ヨーロッパ到来以前の黒死病2024

    • 著者名/発表者名
      諫早庸一
    • 雑誌名

      思想

      巻: 1200 ページ: 9-32

  • [雑誌論文] Did the Climate Change Shake the Empire? The Case of the Mongols in the 1270s and '80s2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 雑誌名

      Journal of Ecological and Environmental History

      巻: 10 ページ: 5-40

    • DOI

      10.23202/jeeh.2023..10.001

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ハンの巡行:ジョチ・ウルスにおける〈移動〉のポリティクス2023

    • 著者名/発表者名
      諫早庸一
    • 雑誌名

      スラヴ研究

      巻: 70 ページ: 105-134

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Maragha Ceased to Function: The Tusi Family’s Intellectual Network and Il-Khanid Political Itinerance2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Yoichi
    • 雑誌名

      Crossroads

      巻: 22 ページ: 1~24

    • DOI

      10.1163/26662523-bja10018

    • 査読あり
  • [学会発表] 歴史上の気候変動と人口変動の関係性から学ぶ2024

    • 著者名/発表者名
      中塚武
    • 学会等名
      日本学術会議 第18 回防災学術連携シンポジウム 人口減少社会と防災減災
    • 招待講演
  • [学会発表] Historical climate adaptations in Japan: Multi-decadal variability as a key factor activating societal regime shift2024

    • 著者名/発表者名
      Nakatsuka, T.
    • 学会等名
      International Workshop on "Multi-disciplinary and Inter-regional Perspectives on Environmental History Towards Comparative Study between Europe and Japan"
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Did the Climate Change Shake the Empire? In the Case of the Mongols in 1270’s and 80’s2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      Spring Conference of the Society of Ecological and Environmental History, “Environment and Diseases.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] “Converting” Knowledge, Culture and Themselves: Mongols’ Imperial Rule in Thirteenth- and Fourteenth-Century Eurasia.2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      International Workshop “Nexus of Knowledge: Science, Medicine, and Technology on the Silk Roads.
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] A Strange Parallel? Agrarian Crisis with Economic Efflorescence in 14th-Century Mongol Eurasia2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      International Conference “Great Chinggisid Crisis: History, Context, Aftermath.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 知識、文化、そして自らを〈換算〉する:モンゴル帝国のユーラシア統治2023

    • 著者名/発表者名
      諫早庸一
    • 学会等名
      高等研究所セミナーシリーズ「ポスト・コロナ時代のグローバル・ヒストリー研究」公開講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] Snowfall in Baghdad: The Mongol Empire on the Threshold of the Little Ice Age2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y., Nakatsuka T.
    • 学会等名
      Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”
    • 国際学会
  • [学会発表] Islamicate Reading of the Chinese Calendar: Qutb al‐Din al‐Shirazi (1236-1311)’s Note on a Topkapi Fragment (Ahmet III 3455)2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      The 16th International Conference on the History of Science in East Asia, Panel 35 “Astral Sciences in Context of Cultural Encounters.”
    • 国際学会
  • [学会発表] Along the River or between the Two Seas: The Imperial Itinerance of the Golden Horde2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      International Symposium “Water Networks, Islands, and Political Powers in the Global Middle Ages.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 14世紀の危機の語り方:ヨーロッパ到来以前の黒死病2023

    • 著者名/発表者名
      諫早庸一
    • 学会等名
      国立大学附置研究所・センター会議 第3部会(人文・社会科学系)シンポジウム「危機の世紀」
  • [学会発表] Beyond Commensurability: Chinese Calendar in Islamicate Astronomical Handbook in the Period of the Mongol Empire (1206-1368)2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      International Conference “Transmission, Translocation, and Transcreation: A Cultural Kinematics of Astral Knowledge”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] The “Imperial Itinerance” of the Golden Horde2023

    • 著者名/発表者名
      Isahaya Y.
    • 学会等名
      International Conference “The Golden Horde: Art, Material Culture, and Architecture”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Climate Anomalies and Disasters in China in the 13th and 14th Centuries2023

    • 著者名/発表者名
      Uno, N.
    • 学会等名
      Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] German Cistercian Monasteries and Climate Change in Transition to the Little Ice Age2023

    • 著者名/発表者名
      Ohnuki, T.
    • 学会等名
      Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Reviewing Yuan Dynasty's History from the Perspective of Two Cycles: The Nomadic and Maritime Worlds2023

    • 著者名/発表者名
      YOKKAICHI Y.
    • 学会等名
      Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Mongol Impacts on Medieval Japan: Kamakura, Kyoto, and Hakata from the perspective of Yuan China-Japan Relation2023

    • 著者名/発表者名
      YOKKAICHI Y.
    • 学会等名
      International Symposium “Water Networks, Islands, and Political Powers in the Global Middle Ages.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 太倉樊村涇遺址の考古発見とその認識に対するコメント2023

    • 著者名/発表者名
      四日市康博
    • 学会等名
      日本貿易陶磁研究会第43 回研究集会
  • [学会発表] 日本における『宣和奉使高麗圖經』研究とユーラシア的視座からの展望2023

    • 著者名/発表者名
      四日市康博
    • 学会等名
      2023「宣和奉使高麗圖經 900年」
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] The late 8th and 9th century Uyghur droughts and Eastern Eurasia: Review for Nicola Di Cosmo et al. "Environmental Stress and Steppe Nomads: Rethinking the History of the Uyghur Empire (744-) 840) with Paleoclimate Data" and "Maligned Exchanges: The Uyghur-Tang Trade in the Light of Climate Data"2023

    • 著者名/発表者名
      Nishimura Y.
    • 学会等名
      Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Multidecadal Climate Variability as a Key Factor to Activate Regime Shifts in Human Societies2023

    • 著者名/発表者名
      Nakatsuka, T.
    • 学会等名
      International Workshop on "Bridging the Gap Between History and Policy Integrating Historical Knowledge and Complex Human-Environmental Systems Modelling"
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 数十年周期の気候変動の比較史に向けて2023

    • 著者名/発表者名
      中塚武
    • 学会等名
      日本第四紀学会2023年大会
  • [学会発表] Multidecadal Climate Variability as a Key Factor to Activate Regime Shifts in Human Societies2023

    • 著者名/発表者名
      Nakatsuka, T.
    • 学会等名
      Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 樹木年輪から見た年から十年単位の気候変動2023

    • 著者名/発表者名
      中塚武
    • 学会等名
      日本学術会議 公開シンポジウム「最終氷期以降の日本列島の気候・環境変動と人類の応答」
    • 招待講演
  • [図書] Pastoral Care and Monasticism in Latin Christianity and Japanese Buddhism (ca. 800-1650)2024

    • 著者名/発表者名
      Toshio Ohnuki, Gert Melville, Yuichi Akae, Kazuhisa Takeda (eds.)
    • 総ページ数
      280
    • 出版者
      LIT Verlag
    • ISBN
      9783643154972
  • [図書] 修道制と中世書物─メディアの比較宗教史に向けて2024

    • 著者名/発表者名
      大貫俊夫, 赤江雄一, 武田和久, 苅米一志(共編)
    • 総ページ数
      416
    • 出版者
      八坂書房
    • ISBN
      9784896943634
  • [図書] 天変地異と病(シリーズ古代史をひらくⅡ)2024

    • 著者名/発表者名
      吉村武彦、吉川真司、川尻秋生 (編集)、中塚武ほか
    • 総ページ数
      366
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      9784000286367
  • [図書] モンゴル帝国と海域世界 12~14世紀(岩波講座 世界歴史 第10巻)2023

    • 著者名/発表者名
      荒川正晴, 弘末雅士 (責任編集), 宇野伸浩, 四日市康博 (編集協力)
    • 総ページ数
      328
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      9784000114202
  • [図書] 1348年 気候不順と生存危機(《歴史の転換期》5)2023

    • 著者名/発表者名
      千葉敏之 (編集), 長谷部史彦, 井上周平, 四日市康博, 井黒忍, 松浦史明
    • 総ページ数
      280
    • 出版者
      山川出版社
    • ISBN
      9784634445055
  • [図書] モンゴル帝国のユーラシア統一(アジア人物史 第5巻)2023

    • 著者名/発表者名
      姜尚中(総監修)小松久男、宇野伸浩、松田孝一、大塚修、金文京、横手裕、大隅和雄、榎本渉、森平雅彦、二宮文子、青山亨、上田新也、伊東利勝、川口洋史、家島彦一、東長靖、原陸郎
    • 総ページ数
      713
    • 出版者
      集英社
    • ISBN
      9784081571055
  • [図書] つなぐ世界史1 古代・中世2023

    • 著者名/発表者名
      岡美穂子 (編集),諫早庸一,四日市康博ほか
    • 総ページ数
      248
    • 出版者
      清水書院
    • ISBN
      9784389226015
  • [図書] 古代の交通と神々の景観-港・坂・道-2023

    • 著者名/発表者名
      佐々木虔一、笹生 衛、菊地照夫 (編集)、中塚武ほか
    • 総ページ数
      538
    • 出版者
      八木書店
    • ISBN
      9784840622639
  • [備考] 崩壊の局面:アフロ・ユーラシアから「14世紀の危機」を思考する」

    • URL

      https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/sympo/2023summer/index-j.html

  • [学会・シンポジウム開催] Slavic-Eurasian Research Center 2023 Summer International Symposium “The Phase of Catastrophe: The Crisis of the 14th Century in Afro-Eurasian Context.”2023

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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