研究課題/領域番号 |
21H00596
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
杉井 健 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (90263178)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 古墳時代 / 首長墓 / 在地墓制 / 人吉盆地 / 阿蘇地域 / 四ツ塚古墳群 / 平原古墳群 / 十蓮寺石棺 |
研究実績の概要 |
研究第2年目の2022年度においても、新型コロナウイルス感染症に対する警戒が完全に解かれることはなく、大学でも行動制限処置が継続された。そのため、昨年度と同様、長期の宿泊を伴うフィールド調査の実施は中止することとなった。 また、研究初年度の2021年度経費の一部を繰り越したことから、2022年度は、繰り越した2021年度経費による調査・研究と研究第2年目の2022年度経費による調査・研究を並行して進めることとなり、調査・研究時間の確保やフィールド調査の進め方などにおいて、相当複雑な調整が必要となった。しかし、可能なかぎり、新規研究資料の収集・分析や研究成果の公表に努めた。具体的には以下の通りである。 1.阿蘇地域の首長墓および在地墓制に関する資料を収集した。首長墓では、阿蘇市に所在する平原古墳群の北尾根グループに築かれた円墳3基の測量調査を実施した。北尾根グループに関しては、コロナ禍前の2019年度に8号墳の測量を行っていたが、そのとき作成の測量図との合成を図った。これにより、北尾根グループの古墳分布が明確となった。なお、この測量調査は業者委託により実施した。一方、在地墓制では、高森町に所在する上の園古墳および中大村古墳群で出土した既存資料の現状を調査した。 2.人吉盆地における古墳動向の調査・分析を実施した。2021年度に行った錦町四ツ塚古墳群測量のデータをまとめるとともに、前田真由子氏の協力を得て同古墳群3号墳で採集された家形埴輪片の資料化を図った。また、人吉盆地における古墳・墳墓の分布についての詳細な検討を開始した。さらに、こうした調査・研究成果を含む報告書を作成した。 3.在地墓制に関する既存の資料として、菊池市七城町で発見された十蓮寺石棺を取り上げることとし、その出土遺物の調査を三好栄太郎氏の協力のもと開始した。石棺蓋については、三次元計測によりそのデータを収集した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、前方後円墳分布の南西端域であって前方後円墳をはじめとする大規模な首長墓が盛んに築造される地域である一方で、肥後型横穴式石室墳や板石積石棺墓、装飾古墳といった多様な在地墓制も継続的に営まれるという全国的にも希有な特質を有す肥後地域(熊本県地域)に焦点をしぼり、当該地域の首長墓と在地墓制との関係を具体的な考古資料の調査・分析に基づいて明らかにし、さらにそれを通してヤマト政権による地域支配のあり方を考察するというものである。 その目的を達成するためには、古墳を実地に調査することが必須であるが、研究第2年目の2022年度においても、長期の宿泊を伴うフィールド調査の実施は難しかった。しかし、外部委託という手段を用いることによって、懸案であった阿蘇市平原古墳群の測量調査を再開できたことは、本研究の推進にとってきわめて大きな意味をもつ。次年度以降につながる進展である。さらに、本来であれば長期のフィールド調査に割くはずであった時間を報告書作成に振り向け、途中経過ではあるが成果公表に至った点は、コロナ禍における調査・研究推進のあり方の一端を示すことができたものと考える。また、三次元計測を駆使して資料のデータ化も図ることができた。 このように、さまざまに工夫を凝らしてコロナ禍におけるフィールド調査のあり方を模索した結果、調査・研究に相当程度の進展がみられたことは事実である。しかし、当初計画で予定していた阿蘇市平原古墳群での発掘調査の実現にいまだ至っていないことから、上記区分を(3)と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年5月8日に、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが2類から5類に変更される。それに伴い、大学における行動制限処置も大きく緩和される予定である。これを機に、フィールド調査を今まで以上に積極的に企画、実施し、研究が大きく進展するよう努めたい。 とくに、人吉盆地および阿蘇地域に焦点をしぼり、首長墓と在地墓制に関するデータの収集を実施する。 人吉盆地は、前方後円墳分布の南西端域であるため、ヤマト政権につながる首長墓と在地墓制のあり方を分析する上では格好の地域である。また、阿蘇地域は、九州島の東西南北を結ぶ交通ルートの結節点であるため、九州島各地の在地墓制の情報のみならずヤマト政権に関わる古墳の情報も色濃く交錯する地域である。こうした点から、これら両地域の分析は、ヤマト政権の地域支配のあり方を考察するうえでの良好なケーススタディとなりうる。なお、阿蘇地域に関しては、これまで長くフィールド調査を実施してきた地域であることから、長年の蓄積データを駆使して分析することができる点でも優位である。 以上に加えて、既存の古墳出土資料の調査・分析も継続する。 こうした調査分析においては、研究初年度に導入した三次元計測技術を駆使したい。また、今年度調査において外部業者委託の有効性を確認できたことから、調査の効率化を図るためにも、とくに測量調査においては外部業者への現地作業委託を積極的に活用したい。
|