研究課題/領域番号 |
21H00616
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
園田 直子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 教授 (50236155)
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研究分担者 |
日高 真吾 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 教授 (40270772)
小瀬 亮太 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60724143)
末森 薫 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 准教授 (90572511)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酸性紙 / 強化処理 / 脱酸性化処理 / 微細セルロースファイバー / 塗工処理 |
研究実績の概要 |
本研究代表者らは、経年劣化酸性紙に脱酸性化処理を施した後、湿潤処理を経て、サクションテーブル上で脱水して、紙表面に微細セルロースファイバー(FCF)塗工処理を行うと、紙の劣化抑制効果のみならず、劣化紙の引裂強さや引張強さを向上させることを明らかにしてきた。この手法は特許出願後、2022年2月16日に日本国特許第7025721号「紙の強化方法」として登録された。これまで、紙の両面に連続的な塗工処理を可能にする小型塗工機(東京農工大学既存設備)を試作し、中程度に経年劣化が進んだ市販の酸性上質紙や中質紙を用いて、FCF塗工処理による紙の強化及び劣化抑制効果を検討してきた。 令和4年度と5年度(繰り越し分)は、長期保存中にFCF強化処理紙の経年劣化を招かないように、原料パルプから水中カウンタコリジョン処理(東京農工大学既存設備)やマスコロイダー(東京農工大学設置)等の機械処理を併用して異なる特性をもつFCF塗工材料の調製を試みた。広葉樹漂白クラフトパルプを原料とし、叩解処理、グラインダー処理、水中カウンタコリジョン処理を順次行うことにより、微細化の程度の異なるFCFを調製した。叩解処理FCF、および叩解処理後にグラインダー処理したFCF塗工液は、小型塗工機の塗工ロール表面にFCF塗膜を形成されず、FCF塗工処理をすることができなかった。しかし、叩解処理後に20回のグラインダー処理をし、さらに30回のACC処理を施すことにより、小型塗工機のロール表面に塗膜を形成できた。この時のFCFの平均繊維幅をTEM観察画像から計測すると40~50nm以下であった。また、このFCF塗工液の保水度は市販CNFと同等あるいはそれ以上の値となった。自然劣化した中質紙に脱酸性化処理を施した後、このFCFを塗工したところ、加速劣化後の引裂強さを非塗工の原紙と比べて約1.5倍まで引き上げることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸性紙対策としてこれまで広く実施されてきた脱酸性化処理は紙の劣化を抑制する一定の効果が認められるものの、低下した紙の強度を回復させることができない。本研究では、セルロースナノファイバー(CNF、繊維幅:100 nm以下)のもつ高強度特性および光学透明性に着目し、CNFよりも繊維幅の大きな微細セルロースファイバー(FCF、繊維幅:数μ以下)に着目し、FCFを紙表面に塗工して紙の脱酸性化処理と併用することによって、紙本来の特性を維持しながら、判読性を低下させずに紙の強度向上効果及び劣化抑制効果を経年劣化紙に付与することを目的としている。 紙の両面に連続的なFCF塗工を可能にする小型塗工機を設計、試作して脱酸性化処理を施した経年劣化酸性紙にFCF塗工処理を実施した。これまで、市販CNFを用いて小型塗工機によるCNF塗工量を制御するための劣化紙の塗工及び乾燥条件の最適化を検討し、特定のCNF塗工濃度範囲において紙表面のCNF塗工量を制御することが可能となり、脱酸性化処理を施した経年劣化紙の引裂強さを向上させることが判明した。さらに、広葉樹漂白クラフトパルプを原料として塗工および強化可能なFCFの調製方法とFCF塗工液の特性を見出した。当初、本研究計画に記した(a)FCF塗工用小型塗工機による劣化紙資料強化法の最適化は、塗工機側の条件だけでなくFCF塗工液側の条件の最適化が進み、(b)中程度まで劣化の進んだ紙資料を用いたFCF塗工処理による強化効果の検証は、中程度まで劣化の進んだ紙資料の調製のための設備の導入検討が進んでいる。(c)劣化紙資料のFCF塗工後の乾燥処理法の開発―試料室分散型恒温真空乾燥システムの導入-の準備はほぼ整い次年度実施できる状態で、(d)実用化に向けたFCF塗工強化紙試料の安全性・長期保存性評価に向けて、保存科学の観点から資料の保存環境調査・整備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究チームは、経年劣化酸性紙に脱酸性化処理を施した後、湿潤処理を経て、サクションテーブル上で脱水して、紙表面に微細セルロースファイバー(FCF)塗工処理を行うと、紙の劣化抑制効果とともに、劣化紙の引裂強さや引張強さを向上させることを明らかにした。この手法は特許出願後、2022年2月16日に日本国特許第7025721号「紙の強化方法」として登録された。これまで、紙の両面に連続的塗工処理を可能にする小型塗工機(東京農工大学既存設備)を試作し、中程度に経年劣化が進んだ市販の酸性上質紙や中質紙を用いて、FCF塗工処理による紙の強化及び劣化抑制効果を確認した。 研究課題(a)FCF塗工用小型塗工機による劣化紙資料強化法の最適化では、今後、FCF塗工液の最適化を行うための有用な評価軸である保水度、顕微鏡観察画像解析に加えて、FCF分散液の粘度を検討する。FCF塗工量、塗工直前の被塗工湿紙の水分、耐折強さへの影響を最適化条件項目に加え、これまでの条件検討の結果を統合して、劣化紙資料強化法の最適化を達成する。研究課題(b)中程度まで劣化の進んだ紙資料を用いたFCF塗工処理による強化効果の検証では、研究課題(a)で確立した条件を対象の紙資料に適用する検討を始める。研究課題(c)劣化紙資料のFCF塗工後の乾燥処理法の開発では、昨年度に引き続き乾燥速度の最適化に加え、現在併用している乾燥剤および冷却トラップ導入の効果と乾燥速度との関係について検討する。これにより大量強化処理の実践時の最適乾燥条件が判明する。研究課題(d)実用化へ向けたFCF塗工強化紙資料の安全性・長期保存性評価では、最適FCF塗工条件によって調製されるFCF塗工強化紙の安全性・長期保存性とともに、本研究チームが開発したローリングテスト等による劣化度評価の検討を始める。保存科学の観点から資料の保存環境調査・整備を引き続き行う。
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