研究課題
本研究では、日本列島各地に分布する後期更新世~完新世火山灰土の連続サンプリングを行い、火山灰土そのものに内在する環境指標要素をどこまで高精度に解析できるかを明らかにする。そして高解像度陸域古環境変動解析から環境急変期を抽出し、ユーラシア大陸の東西における比較も意識しながら、グローバルかつ大規模で急激な環境変化と地域的・局地的かつ大規模で急激な環境変化との識別を目指したいと考えている。2023年度は、喜連川丘陵で採取された火山灰土試料に加え、2021年度に上北平野で採取した火山灰土試料の層序解析と各種分析(粒度分析、土壌鉱物の結晶度測定、微細石英のESR信号測定、フラントオパール分析等々)を継続した。併せて、前年度までに実施した関連研究レビューを整理し、総説的な成果物としてまとめる準備を進めた。6月下旬にデンマークで開催されたLED2023国際学会と7月中旬にイタリアで開催されたINQUA2023国際学会において、関連する研究発表(ポスター発表)を行った。また、12月上旬に徳島大学で開催されるESR応用計測研究会/ルミネッセンス年代測定研究会/フィッション・トラック研究会2023年度合同研究会においても、関連の研究発表(口頭発表)を行った。上記に加え、2022年12月初旬に発生した研究代表者の予期せぬ怪我のため前年度未実施となった火山灰土採取調査を、2023年9月に鳥取県倉吉市とその周辺域で実施した。しかしながら、当該地域の露頭状況が想定以上に思わしくなく、中期更新世末~後期更新世~完新世の連続した火山灰土試料を採取可能な適地を見出すことができなかった。このため2023年度後半に、産業技術総合研究所地質調査総合センターが所有する青森県上北平野の別の地点から採取されたボーリングコア試料を分取させていただき、新たに分析対象とする火山灰土試料に加えることとした。
3: やや遅れている
左足脹脛筋肉断裂のため、2年12月~2023年4月の間、研究代表者の歩行に支障が生じたため、野外調査や室内実験計測作業に遅れが生じることとなった。2022年5月までのCOVID-19感染症の影響などもあり、現時点ではまだ、それらの影響による遅れを引きずっている。
2024年度は、前年度末に地質調査総合センターの田村亨・伊藤一充研究室の協力を得て入手した、上北平野の既存ボーリングコアの火山灰土試料について、基本的な各種分析(粒度分析、土壌鉱物の結晶度測定、微細石英のESR信号測定、フラントオパール分析等々)を進める。同様に、前年度までに進めてきた北関東(栃木県那珂川町)、東北(十和田市)の露頭試料の分析・解析を継続し、その結果を見つつ、更なる補充調査・補充分析についても検討する。なお、2023年度に実施した三瓶火山・大山火山噴出物を主な起源とする火山灰土試料の採取調査では、本研究の目的に適合するような良好な露頭を見いだせなかった。したがって、これらを補完できるような別の地点、あるいは別の地域(たとえば九州あるいは北海道など)でのサンプリング調査についても検討してみたい。上記のような火山灰土試料の解析に付随して、年代既知のテフラに含まれる斜長石やその他の斑晶鉱物等について、そのX線回折データから、鉱物の結晶化度の経時的変化や風化度を示す指標などについて引き続き検討を進める。以上のような活動・成果を踏まえた上で、これまでの分析・解析における問題点の洗い出しや分析項目の追加などについて総合的な検討を行う。併せて、研究協力者であるドイツのFuchs博士をまじえ、風成堆積物から読み取るユーラシア大陸東西における更新世~完新世の環境変化について、分析結果の比較などを中心に議論を深め、これまでに実施したユーラシア大陸東西地域を対象とした関連研究レビューを整理し、総説的な成果物としてまとめることを目指したい。最終年度となる2025年度については、これまで4年間の分析成果をもとに、まず、日本国内における地域間・試料間の比較を行う。その上で、日本の火山灰土試料とヨーロッパのレス試料から読み取ることのできる陸域環境の変化について比較検討を行う。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B
巻: 536 ページ: 67-71
10.1016/j.nimb.2022.12.021
:橿原考古学研究所『奈良県遺跡調査概報』
巻: 第1分冊 ページ: 189-190