研究課題/領域番号 |
21H00731
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷本 雅之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (10197535)
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研究分担者 |
木下 光生 奈良大学, 文学部, 教授 (10520629)
飯田 恭 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (20282551)
柳沢 のどか (永山のどか) 青山学院大学, 経済学部, 教授 (20547517)
荒武 賢一朗 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (90581140)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 世帯 / 救貧 / 火災保険 / 領主財政 / 家事労働 / 自営業 / 互助組合 / キッチン |
研究実績の概要 |
本研究では、人々の「生活の存立」を支える「構造」が当該の経済社会の政治・社会制度や人々の再生産の構造とどのような関係にあったのかを解明することを課題としている。本年は社会経済史学会全国大会でパネル報告を組織し、①飯田恭が「18~19世紀プロイセン農村における<建築>と<居住>:領主の援助から公的救済へ」において、近世において領主が農民の生活を厚く支援していたこと、だが18世紀後半以降、その領主の負担を、国家が組織した互助組合が肩代わりしていったことを、御領地・郡文書を中心に、後の社会国家を展望しつつ跡付け、②荒武賢一朗・木下光生「『民政』における領主・国家財政と村財政:近世・近代日本の生活保障を中心に」が、領主(幕府・大名・旗本)の財政資料や政策文書によって領民からの年貢を基盤とした収入がどのような目的に使われたのかを、近代行政を視野に入れながら明らかにし、次いで、17世紀後半~20世紀前半の村(大字)で作成された自治経費帳簿をもとに、近世・近代の村落自治と村財政において、村人の生活保障がいかに位置づけられていたか、またそこに変化がみられるのか否かを長期的な目線で検討した。さらに③谷本雅之「生活の存立と家事労働―20世紀日本を中心に」は、視点を家族・世帯の側に移し、日常生活を成り立たせる要素として「家事」労働を取り上げ、「家事」はどのように処理され、そのことがどのように社会・経済の在り方と関連するのかを、近代日本で人口の大きな部分を占めた農村・都市の自営業世帯に焦点をあてて論じた。永山のどかも、パネルの中でのコメントにおいて、ドイツにおける生活存立と世帯の関連を、家事用家電製品の普及状況や生活の場としての住宅(特にキッチン)の構造から論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は社会経済史学会全国大会でパネルを組織し、研究グループのこれまでの蓄積と成果に基づいた討論を行ったことで、今後の研究の方向性についての見通しを得られた。毎月定例の1日をかけた研究会では、科研メンバー間での相互検討とともに4人の外部講師を招いて、20世紀前半のドイツにおける救貧問題とその対応、家事使用人の国際展開、協同組合による庶民金融の日独比較、イギリスにおける慈善とチャリティ、の報告会を行い、視野を大きく拡大した。一方でコロナ禍の影響により、予定していた海外での資料調査が見送られた。ベルリンの文書館からのデジタル化資料の取り寄せなどで代替を試みているが、一定の制約があることは否めない。2023年度はこの点についての状況の改善を願っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、個別専門領域を異にする研究者が、凝縮されたテーマに取り組む点に特徴があり、そのためにはメンバーが一同に会した研究会の頻繁な開催が重要である。毎月1回、フルに1日を費やす月例の研究会を開き、日本史とプロイセン・ドイツ史の専門家の深いレヴェルでの交流を図ってきたし、今年度もそれを続ける。昨年度までは遠隔会議方式が基本で一部対面方式ないしはハイブリッド方式をとっていたが、今年度はなるべく対面を増やしたい。また、昨年度同様、当該分野の専門家を研究会に招き、交流を行うことも計画している。個々の参加者が取り組む具体的な課題は、昨年度に引き続いて以下を予定している。荒武賢一朗(研究分担者)は、おもに19世紀の日本を対象に、消費財としての食料品および燃料の調達問題を流通機構に関する史料群から分析する。木下光生(研究分担者)は、近世・近代日本の村落家計史料から検出される農民世帯の支出内容と居住実態をベースに、村人が「自給と市場」をいかに組み合わせて、一定水準の食生活と住環境の維持に努めたかを追究する。飯田恭(研究分担者)は、19世紀プロイセンについて、農民世帯に対する領主の建築支援をいかに国家・地方行政が代替していったのか、また農地不分割(一子相続)ゆえに大量発生した土地なし世帯の生活を国家・地方・都市行政がいかに保障したのかを調査する。永山のどか(研究分担者)は、20世紀ドイツにおける住宅供給と、そこでの施設・設備の在り方に焦点をあてる。特に西ドイツのシステム・キッチンの開発に着目する。谷本雅之(研究代表者)は、近代日本の世帯における家事労働の実態を、家事使用人の雇用、居住環境との関連を念頭に、世帯調査の個票分析も交えつつ検討する。家事使用人割合が顕著に高いイギリス、中間的なドイツとの比較検討にも着手する。海外調査については、コロナ禍の状況をにらみつつ、一部実施することを考えている。
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