研究課題/領域番号 |
21H00741
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
桑田 耕太郎 東京都立大学, 経営学研究科, 教授 (50186558)
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研究分担者 |
松嶋 登 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (10347263)
吉野 直人 西南学院大学, 商学部, 准教授 (20710479)
山内 裕 京都大学, 経営管理研究部, 教授 (50596252)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 組織学習 / 組織インテリジェンス / 組織ルーティン / 異種混交のエコロジー / 実践のエスノメソドロジー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,組織の安定と変化のダイナミクスを説明する根源的概念として重要な組織学習論をめぐり,単純化されてきた機能主義的アプローチの限界を克服し,組織インテリジェンスを追求する理論を構築することにある.組織学習とインテリジェンスに関するこうした研究を遂行するためには,近年勃興している組織ルーティンの遂行性アプローチやアクター・ネットワーク理論,制度派組織論,エスノメソドロジーなどの組織理論の広い範囲に渡る諸研究成果との関係を再構築する必要があり,特にそうした諸理論を,組織の安定と変化,知識に対するより深い理解と新たな知識の開発,デザインされた人工物が織りなす人間行動と社会の経験的研究といった,組織インテリジェンスに豊かなインプリケーションを持つ理論として刷新する必要がある. そのため研究期間の初年度となる2021年度は,当初の計画通り,組織学習のエコロジーと組織インテリジェンスに関する基礎的な文献レビューを主とした研究を実施するとともに,研究体制を確立してきた。具体的には,研究分担者である松嶋は,最新の概念である社会物質性概念を通じて組織エコロジーの理論構築を,吉野は,組織ルーティンの硬直性や逆機能を指摘していた伝統的な官僚制理解を超えて,近年の顕示的/遂行的ルーティン概念や組織ルーティンのパターニング概念などを検討してきた.山内は,デザイン科学を再訪しつつ,近年勃興しているデザイン思考の理論的位置づけをレビューしてきた.研究代表者である桑田は,研究分担者が取り組む最新研究に対して大局的な理論的含意を与えてつつ,学習概念のレビューと技術としてのAIとの関係などを検討してきた. こうした個別の研究を基本とし,オンラインによる研究会や研究代表者を中心とする交流を通じて文献レビューの方向性をすり合わせてきており,すでに組織学会などでその一端を発信してきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に,組織ルーティンをめぐるレビューに関するオンライン研究会を開催した.その成果は, 2022年度組織学会年次大会(2021年10月30・31日,神戸大学,オンライン開催)の組織論レビューセッションにおいて,吉野による「組織ルーティン概念の変遷と今後の展開」として学会発表されるとともに,研究代表者の桑田がコメンテーターを務め,その組織学習とインテリジェンスに関するインプリケーションに関する議論を報告した.組織学会でのフィードバックを受けて,吉野によって改めて書き下ろされた論文ならびに桑田によるコメンタリーは,組織学会編集『組織論レビュー』(仮,白桃書房)に収録される. 第2に松嶋と吉野は経営学における社会物質性概念に関する英文の研究書(Noboru Matsushima, Naoto Yoshino, et. al. (2022) Materiality in Management Studies: Development of the Theoretical Frontier, Springer)を発刊した.また松嶋と桑田は,理化学研究所SPring-8サイトの石川哲也所長とともに,放射光施設を通じたカーボンニュートラル社会に向けた研究会を組織し, Zoomによるオンラインシンポジウム「カーボンニュートラルに向けて:自然科学と社会科学の連携」( 2022年3月15日)を開催した.そこにおいてビッグサイエンスが可能にする組織インテリジェンスの可能性について議論した. 第3に山内は実戦に置ける社会物質異性に関するエスノメソドロジー研究の論文を Warwick Business School PPI Seminar, online, (2021年11月18日)で発信していった.
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の2年目となる2022年度は,これまでの組織学習のエコロジーと組織インテリジェンスに関する基礎的な文献レビューを引き続き行うとともに,これを基礎として,企業組織の創造性に焦点を当てて理論的・実証的研究を進めていく.特に,産業革命以来の化石燃料・エネルギーを基礎とした産業のパラダイムが限界に近づきつつあり,企業を含む産業,地域社会,国際社会に至るまで,抜本的な組織学習を通じた企業経営の創造性や組織インテリジェンスが求められている. 具体的には松嶋は,コンティンジェンシー理論を組織学習プロセスとして読み解き,制度的企業家研究や最新の概念である社会物質性概念を通じて組織エコロジーの理論構築を行う.吉野は,組織ルーティンの硬直性や逆機能を指摘していた伝統的な官僚制理解を超えて,近年の顕示的/遂行的ルーティン概念や組織ルーティンのパターニング概念などを基礎に,官僚制組織の創造性や組織インテリジェンスに関する研究を行う.山内は,H. A.サイモンの人工物のデザインの科学や,近年勃興しているデザイン思考の理論的含意を踏まえ,実践のエスノメソドロジー研究を進める. 研究代表者である桑田は,J.G.マーチを嚆矢とした組織学習概念の包括的レビューを基礎に,企業組織の創造性や革新性に関するフィールドワークを行うとともに、研究分担者が取り組む最新研究に対して大局的な理論的含意を与えていく.そのため,2022年度は,前半は個別に理論研究やフィールドワークを遂行しつつ,とくに後半は定期的な研究会を開催して理論研究の方向性をすり合わせていく必要がある.これらの研究成果は,経営学説を専門とする経営学史学会や組織学会等で報告していくことを念頭に置いており,関連する国内外の学会での報告や出版を通じて積極的に研究成果を発信していく.
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