研究課題
研究期間の2年目となる2022年度は,これまでの組織学習のエコロジーと組織インテリジェンスに関する基礎的な文献レビューを基礎として,企業組織の創造性に焦点を当てて理論的・実証的研究を進めてきた.研究分担者である松嶋は,環境適応理論として代表的なコンティンジェンシー理論を組織学習プロセスとして読み解き,制度的企業家研究や最新の概念である社会物質性概念を通じて組織の創造性の理論的整理を行ってきた.吉野は,組織ルーティンの硬直性や逆機能を指摘していた伝統的な官僚制理解を超えて,近年の顕示的/遂行的ルーティン概念や組織ルーティンのパターニング概念などを基礎に,官僚制組織の創造性や組織インテリジェンスに関するレビュー論文を執筆した.山内は,H. A.サイモンの人工物のデザインの科学や,近年勃興しているデザイン思考の理論的含意を踏まえ,実践のエスノメソドロジー研究を進める.研究代表者である桑田は,J.G.マーチを嚆矢とした組織学習概念の包括的レビューを基礎に,企業組織の創造性や革新性に関する理論研究を行い,分担者の研究を「創造性」という視座から書籍に編集、執筆した.2022年度は,前半は個別に理論研究やフィールドワークを遂行しつつ,とくに後半は定期的な研究会を開催して理論研究の方向性をすり合せ,組織インテリジェンスの典型である組織の創造性について理論的研究の成果をまとめてきた.これらの研究成果は,経営学説を専門とする経営学史学会や組織学会等での報告のほか,経営学史学会監修による桑田耕太郎編著の『創造する経営学』(文眞堂)にまとめ,その出版を通じて積極的に研究成果を発信していく.
2: おおむね順調に進展している
2022年度は,第1にこのプロジェクトを開始以来進めてきた広義の組織学習に関するレビューを基礎に,研究代表者の桑田が編集・執筆した『創造する経営学』((経営学史叢書第Ⅱ期 ⑦創造性)』(文眞堂2023年)を体系的な研究成果として上梓することができた.本書の中で,共同研究者に吉野は,組織ルーティンの遂行性という特徴から,いわゆる官僚制組織でも組織学習を通じて創造的になりうることを示した.松嶋は,Marchの組織学習におけるExploitation-Explorationの本来の含意と,両利きの経営や社会物質性,さらに制度的企業家との関係を明晰に位置付けた.また山内は,創造性に不可欠なある種の価値評価や美学的要素などが,経営者の創造的機能と深く関係していることを,歴史的レビューから解明した.研究代表者の桑田は,編集責任者として,これらの研究の前提の方向性を調整するとともに,経営史学の視点から,組織インテリジェンスの創造性に関する諸研究を,行動主義心理学から認知革命,行動科学的アプローチから実践論的転換に至る歴史的パースペクティブの中に位置づけ体系的に整理した.第2に,吉村は組織学会の組織学会編『組織論レビューⅣ:マクロ組織と環境のダイナミクス』白桃書房に「組織ルーティン概念の変遷と今後の展望」に寄稿したほか,これに対して桑田がコメンタリーを執筆し,研究成果を発表していった.山内は,物質性や遂行性に関するフィールドワークを基礎に国際会議で研究発信をするとともに,松島は物質性に関する英文の書籍を編集・執筆し,研究成果を海外に発信していった.このように我々のプロジェクトの第一段階である既存研究のレビューについては,概ね一定の成果を達成できた.一方で,コロナ禍の影響のため,本来計画していたフィールドワークを必ずしも十分に遂行できたとは言い難い.次年度以降の課題としたい.
研究期間3年目となる2023年度は,これまで行ってきた組織学習のエコロジーと組織インテリジェンスに関する文献レビューや,経営学における創造性研究に関する理論的研究を基礎に、特にコロナ禍の中で制約されてきたフィールドワークを積極的に遂行し,理論的・実証的研究を進めていく.研究分担者の松嶋は,企業や地域を巻き込んだ組織的な教育と学習の場をフィールドワークの対象とし,コミュニティースクールへのアクション・リサーチや実際の利害関係者を巻き込んだワークショップの開催を通じて、物質性に基づいた組織インテリジェンスの向上に関する社会実装を試みる.吉野は組織ルーティンの遂行性の視座を導入することで,官僚制組織の創造性を解明してきたことを基礎に,組織学習と組織のインテリジェンスのよりダイナミックな関係について,理論的・実証的研究を行う.山内は近年注目されているデザイン思考の理論的含意を踏まえつつ,組織インテリジェンスや創造性における美学に関するレビューを基礎に,実践のエスノメソドロジー研究を進めていく.研究代表者である桑田は,組織学習概念の包括的レビューを基礎に,アントレプレナーや企業組織の創造性と革新性に関するフィールドワークを行うとともに、研究分担者が取り組む最新研究に対して大局的な理論的含意を与えていく.そのため,2023年度は,まずは前半でこれまでコロナ禍のため制約されてきたフィールドワークを積極的に遂行していくとともに,後半は対面による研究会を開催して理論研究の方向性をすり合わせていく.こうした緊密な研究連携を基礎に,それぞれのフィールドワークを基礎とした新たな理論構築の方向性について議論を重ねていく.研究成果は,組織学会や経営学説を専門とする経営学史学会等,関連する国内外の学会での報告で報告していくことを念頭に置いており,最終的には体系的な書籍として研究成果を発信していく.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件) 図書 (2件)
『研究 技術 計画』
巻: 37-4 ページ: 391-403
10.20801/jsrpim.37.4_391
『ビジネス・インサイト電子版』
巻: 30-3 ページ: -