研究課題/領域番号 |
21H00778
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八尾 祥平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (90630731)
|
研究分担者 |
村井 寛志 神奈川大学, 外国語学部, 教授 (60409919)
鶴園 裕基 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, その他(招聘研究員) (10804180)
持田 洋平 慶應義塾大学, 文学部(三田), 訪問研究員 (20890627)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 華僑 / 華人 / 台湾 / 香港 / シンガポール / 出入国管理 / 統治性 |
研究実績の概要 |
これまでの華僑・華人研究では、中国大陸と華僑・華人とのつながりを自明視した研究が主流であった。これに対して、本研究では、大英帝国と日本帝国の旧植民地であった香港、台湾、そして、シンガポールと華僑・華人との結びつきに着目して、一種のステレオタイプ化した華僑・華人像を再構築することを目指す。 具体的には、①単一帝国ではなく、旧日英帝国という複数帝国の視座を採用し、②冷戦期における台湾・香港・シンガポール間の出入国管理体制を実証的に分析することで、「植民地からの近代化」を実証的に検証する。本研究は、出入国管理を切り口にして、既存の華僑・華人研究では周縁化されてきた香港人・台湾人・シンガポール華人を考察することで、「中国にルーツをもつこと」を自明視しない主体意識が形成される歴史的過程を国家政策と国際環境との連関から解明することで、これまでの華僑・華人についての理解を刷新しうると考えている。 こうした問題意識と研究計画に基づき、今年度は研究の初年度として(1)研究体制の整備、(2)国内における史料調査、(3)研究会の開催を行った。(1)については、研究者の役割分担の明確化や各メンバーの所有する史料やこれまでの研究の知見をwebサイトなどを用いて効率的に共有化するための体制を整備した。(2)については、今年度は新型コロナの感染拡大により海外での史料調査は行わず、国内での史料収集や各メンバーが所有する史料を整理することをあらかじめ予定していた。そこで、国会図書館や神戸華僑歴史博物館等に所蔵される戦後の日本社会における華僑の在留資格関係の史料調査を実施した。(3)について、今年度は定例研究会を4回実施することができた。 こうした研究活動によって得られた知見は、泉水英計編『『近代国家と植民地性-アジア太平洋地域の歴史的展開』(御茶の水書房)に所収される論文として刊行された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は定例研究会を3回実施し、(1)知見の効率的な共有を含めた研究体制の確立、(2)研究協力者を講師とする研究会の実施、(3)史料情報だけでなく、本科研において重要な「植民地からの近代化」に関する先行研究・理論研究の動向の調査、(4)2022年度以降に実施する予定である海外史料調査の準備を行う予定であった。 実際には、定例研究会は4回実施し、(1)についてはオンライン会議や資料の共有化を図る体制が確立し、効率的に研究を進めることができるようになり、(2)については兵庫県立大学の陳來幸教授に戦前から戦後にかけての神戸と東南アジアをつなぐ華僑ネットワークについての報告だけでなく、神戸の研究施設で所蔵される貴重な史料・図書についての所在を教示してもらうことで、本研究について参照すべき史料の所在を知ることができた点は今後の研究の進展に大きく貢献する。(3)についても、出入国管理を「植民地からの近代化」という視点で考察するための理論的なキー概念として、フーコーの「統治性」概念をキー概念があり、植民地社会の現実を分析する英語圏のサバルタンスタディーズ(チャタジーら)などの潮流について国内外での知見について研究メンバー間で共有できた。(4)に関しても、来年度の海外調査実施時に収集する史料の選定だけでなく、研究分担者の中に予定を前倒しで海外での史料調査ができた者がいたことも研究を当初の予定以上に進めることにつながった。 こうした研究活動における成果を、八尾・村井・鶴園が論文としてまとめ、論文集である泉水英計編『近代国家と植民地性-アジア太平洋地域の歴史的展開』(御茶の水書房)に所収される論文として刊行できた。 以上から、今年度の研究は当初の計画以上に進展しているといえると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、当初の研究計画の通り、(1)国内外での史料調査、(2)定例研究会を実施する。 (1)については、来年度に予定されていた海外での史料調査を一部前倒しで実施することができたものの、新型コロナの感染拡大状況や国際情勢などを鑑み、安全に調査を実施できるように柔軟な対応ができるように心がけたい。海外での調査時に閲覧・収集する史料についてはほぼ選定を終えている。また、昨年度に引き続き、国内での史料調査も継続する。 (2)については、来年度も定例研究会を3回実施する予定であるが対面だけでなく、状況次第ではオンラインでの実施も視野に入れている。また、研究会を通じて研究協力者による本研究課題に関わる知見の提供を受けることも継続する。また、理論研究についても、来年度はフーコーの統治性との関りが強いアガンベン・アーレント・ギルロイによる議論について研究の整理を行い、本研究における理論的フレームワークを強化する。
|