研究課題/領域番号 |
21H00805
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
飯田 薫子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50375458)
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研究分担者 |
馬橋 英章 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (40785937)
坂本 友里 城西大学, 薬学部, 助教 (60815281)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 飽和脂肪酸 / 骨格筋 / アポトーシス / 肥満サルコペニア |
研究実績の概要 |
本研究では筋内に蓄積する脂質が筋の病的変容を引き起こす分子メカニズムを解明するとともに、筋の脂質蓄積を抑制し、サルコペニア改善に寄与しうる食品や栄養因子を広く探索することを目的とする。本年度は以下の成果を得た。 1)培養細胞での検討:我々はこれまでに培養系筋細胞に飽和脂肪酸負荷を行うとアポトーシスやミオシン重鎖(myosin heavy chain;MHC)遺伝子の転写障害が生じることを確認してきた。そこで本年度はその機序の検討を行った。その結果アポトーシスに関しては、筋細胞に飽和脂肪酸を負荷すると小胞体ストレスシグナル伝達に関わるCHOPやATF4の遺伝子が上昇し、アポトーシス誘導因子である Baxの発現が増加してアポトーシスが出現することを確認した。またMHCの転写障害については、飽和脂肪酸負荷によりMHC遺伝子の発現を制御するMyoDの転写活性が阻害され、その結果MHC遺伝子の発現が低下することを明らかとした。 2)動物を用いた検討;我々はこれまでに動物モデルを用い、脂質過剰食が骨格筋の代謝に与える影響を検討してきた。本年度は2種類のモデルマウスを用いた検討を行った。①ミトコンドリアの主要酵素であるクエン酸合成酵素のヘテロ欠損マウス(CS- KOマウス)および野生型マウスにそれぞれ高糖高脂肪食を与え、骨格筋における代謝関連遺伝子発現の差異について検討した。しかしながら野生型とCS- KOマウスの間で、検討した遺伝子群に明らかな違いは認められなかった。②普通食および高糖高脂肪食を与えたマウスにそれぞれ坐骨神経切除を施して筋萎縮を誘導し、食事の違いによる病態の差を、遺伝子発現および組織学的評価により比較した。その結果、高糖高脂肪食群の骨格筋では、普通食群にくらべ一部のアポトーシス関連遺伝子に有意な増加を認め、さらに遅筋線維を中心とした萎縮が増強することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、飽和脂肪酸を中心とした脂質が骨格筋の代謝・アポトーシス・炎症などに与える影響について、幅広い研究を行なった。細胞実験においては、飽和脂肪酸による筋細胞アポトーシス誘導には、これまでに他の細胞株で報告されていた知見と同様に小胞体ストレスが関与していること、また飽和脂肪酸が骨格筋の遺伝子発現に重要な役割を果たす転写因子MyoDの転写活性を直接制御すること、などを明らかにすることができた。特に後者ついては、脂肪酸が転写因子の転写活性を直接制御するという新しい知見であり、興味深いものと考える。 一方動物を用いた検討においては、高糖高脂肪食はCS-KOの骨格筋における代謝関連遺伝子の発現に影響を及ぼさないことが確認された。本結果については現在、その他の解析結果と併せて国際誌へ投稿中である。一方で、神経切除モデルの検討では、高糖高脂肪食摂取下では筋萎縮の悪化がみられ、そのメカニズムの1つにアポトーシス誘導が関与している可能性を見出した。本モデルは肥満サルコペニアモデルとして、今後の研究への応用性が期待できる。 以上のように、予定通りに研究は進行しており、これらの研究から様々な興味深い知見が得られていることから、計画の達成度は予定通り順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績概要1)、2)について、項目毎に以下のように研究を推進していく。 1)細胞を用いた検討 ①脂肪酸による筋細胞のアポトーシス誘導を、他の要因によるアポトーシス誘導と比較し、メカニズムの類似・相違点について検討する。加齢性筋萎縮の主要要因として考えられている活性酸素種(ROS)を想定し、筋細胞に過酸化水素水を負荷した際のアポトーシスの発生状況、およびアポトーシス誘導経路について評価する。これらのデータを脂肪酸負荷時のデータと比較し、メカニズムの違いについて検討していく。②飽和脂肪酸がMyoDの転写活性を阻害するメカニズムについて明らかとする。MyoDの活性制御にはセリン残基のリン酸化が重要であることが知られている。そこで該当するセリン残基に変異を入れたMyoDを作成しC2C12筋芽細胞に導入することにより、脂肪酸の転写活性阻害を解除しうるかを検討する。これにより脂肪酸が本転写因子のリン酸化の修飾を介して、転写活性を変化させる可能性を明らかとする。 2)動物を用いた検討 ①投稿中の論文に関して、必要に応じて追加実験を行う。②昨年度に確立した肥満サルコペニアモデルマウス(高糖高脂肪食負荷+神経切除)を用い、その筋萎縮を食品因子が改善しうるかを検討する。我々はこれまでの先行研究においてイソフラボンの一種であるdaidzeinが、培養筋細胞において脂質代謝やミトコンドリア活性を増強することを報告している。そこでまずはdaidzeinを候補物質とし検討を進める。高糖高脂肪食もしくはdaidzeinを加えた高糖高脂肪食を与えたマウスに坐骨神経切除を施し、骨格筋組織での炎症・アポトーシス・栄養代謝・筋萎縮に関連する遺伝子発現やシグナルタンパク質の変化、組織学的な変化について詳細な検討を行うことを予定している。
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