研究課題
不登校、いじめ、自傷行為など、児童・青年期に顕在化する精神病理の発生機序に関する研究では、リスク要因の作用を前提とするモデルが広く採用されてきた。一方、申請者らは長期の大規模縦断研究により、リスク要因やその影響を緩和する保護要因では十分に説明できない精神病理があり、第3の要因として、ウェルビーイングをもたらす促進要因に着目する必要性を見出した。本研究では、これまで主に学習・教育の文脈で研究されてきた動機づけ概念が、精神的健康の促進要因としても重要な役割を果たすというモデルを提唱し、①動機づけの状態が、多様な精神病理の抑制にどのような貢献を果たすのか、②個体発生の過程において、動機づけやその背後にある心理特性がどのように形成されるのかを解明する。乳幼児から中学生までの約1万名を対象に5年間の系列的縦断研究を実施し、発達精神病理学モデルの再構築につながる基盤的エビデンスの提供を目指す。今年度は、中部地方の中規模都市に所在する全ての小中学校で調査を実施し、小学4年生~中学3年生の児童生徒5396名(男子2729名、女子2667名)および担任教員310名(男性127名、女性183名)から回答が得られた。自己決定理論に基づいて作成した独自の学習動機づけ尺度(児童生徒評定)について探索的因子分析を行った結果、当初の想定通り、非動機づけ、外発、取り入れ、同一化、内発の5つの因子が見出され、因子的妥当性が確認された。独自に作成した教師の自律性支援尺度の因子分析では、有能感支援、関係性支援の因子は想定通りに見出されたものの、自律性支援については児童生徒の考えや関心を尊重する要素と授業の意義や目的を丁寧に伝えようとする要素に分かれた。児童生徒の学習動機づけは抑うつ、不登校、いじめ加害など心理社会的適応に関わる広範な変数と関連を示し、精神的健康の促進要因としての動機づけの重要性が確認された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、調査対象市の全ての小中学校で調査を実施し、児童生徒および担任教員から9割を超える有効回答を得た。また、独自に作成した尺度について、因子分析によりおおむね理論的想定に一致した因子構造を見出すとともに、外的変数とも予測に一致したパターンの関連が見られ、十分な構成概念妥当性の根拠が得られた。
引き続き同一の対象校で系列的縦断調査を実施し、①動機づけの状態が、多様な精神病理の抑制にどのような貢献を果たすのか、また、②個体発生の過程において、動機づけやその背後にある心理特性がどのように形成されるのかを検証する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件)
発達心理学研究
巻: 33 ページ: 未定
臨床精神医学
巻: 51 ページ: 195-203
巻: 32 ページ: 233-244
巻: 32 ページ: 79-90
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10.1016/j.braindev.2021.01.003