研究課題/領域番号 |
21H00982
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
栗林 勝彦 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (40249751)
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研究分担者 |
境 圭一 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20466824)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ストリングトポロジー / 弦作用素 / 微分代数モデル / ループ積 / Cartan カルキュラス |
研究実績の概要 |
本研究では,値域空間を Lie 群の分類空間や可微分スタックに置き換えることで,ストリングトポロジーが引き起こす2次元開閉位相的場の理論(TQFT)を考察し,理論に現れる弦作用素の非自明性を検証するとともにTQFTに関連する作用素の特性を明らかにしてきた。 ストリング作用素に関する非自明性の研究に関して,2021年度から共同研究者,山口俊博(高知大学),内藤貴仁(日本工業大学),若月駿(学振PD,信州大学)との研究により単連結多様体MのBV-完全性に関してその性質を探ってきた。ここで,Mの自由ループ空間LMの簡約コホモロジー上の簡約Batalin-Vilkovisky (BV)作用素が完全であるとき,MをBV-完全と定義している.こうした作用素・演算に関する研究に2つの大きな進展があった。一つは,有理ホモトピー論を駆使し2021年度から考察してきた,自由ループ空間に関するストリング括弧積の縮約に関する結果の深化である.具体的には,MがBV-完全である単連結閉多様体である場合,自由ループ空間LMのストリング括弧積をLMのホモロジー(ループホモロジー)上の(結合法則をみたす)ループ積とBV-作用素で記述できるが,さらに,Mのループ括弧積の制限で記述できることを示した。こうしてストリングトポロジーに現れる3つの演算の関連性がBV-完全である場合に明確になった.もう一つは,Fiorenza--Kowalzigにより定式化された微分Lie代数の(ホモトピー)Cartanカルキュラスに関する結果である. 2021年からの研究で,有理モデルによるCartanカルキュラスとHochschildチェイン複体から得られるカリキュラスを可換図式に埋め込み関連付けることに成功した(結果A)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Mを単連結多様体とするとき,Mの自己ホモトピー同値写像の作るモノイドaut(M)の実ホモトピー群はMのde Rham 複体deRham(M)のAndre--QuiilienコホモロジーHAQ(deRham(M))とSullivan写像によりLie 代数として同型になる。HAQ(deRham(M))とMのde Rham 複体のHochschildホモロジーのEnd環との対に,Lie作用素と縮約作用素のCartanカルキュラスが現れる。これがaut(M)の実ホモトピー群とLMのコホモロジー上で微分作用素がつくる空間Der(H(LM))との対のCartanカルキュラスを経由するという定理(結果B)を得ている。End環やDer(H(LM))は関手的でないためその取り扱いは,一般に困難を伴う。しかし,(結果B)とdeRham(M)のコファイブラント交換による考察により上述の(結果A)が得られていることは特筆に値する。 また,縮約作用素は一般に単射写像であることも示すことに成功している。さらに,ループコホモロジー上のLie作用素に関しては,球面の基本類によるファイバー積分による幾何学的解釈を得ている。同様に縮約作用素に関しても球面の基本類にBV-作用素を適用した類によるファイバー積分により記述される。Cartanカルキュラスの幾何学的解釈をさらストリングトポロジーに適用することで,共同研究者の内藤貴仁氏はループ積とループ括弧積,Lie作用素,縮約作用素との関係式を明らかにする研究を進めている。以上のようにストリングトポロジーに関連して現れるいくつかの作用素間の関係を明確にし,さらに新たな研究を生み出しているという点において,本研究は計画以上に進展しているといって良いであろう。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように,ストリングトポロジーに現れる(ホモトピー)Cartanカルキュラスの代数的・幾何学的解釈を進めることで,多様体M上の自己ホモトピー同値写像の作るモノイドの有理ホモトピー群上で定義されるLie作用素,縮約作用素,BV-作用素の関係を「さらに」明らかにする。特に,Felix--Thomasにより定義されたGamma 写像(aut(M)のループ空間の有理ホモトピー群からループホモロジーの1次Hodge分解へ写像)と進捗状況で述べたSullivan写像との関連を明確にする。ループホモロジーとループコホモロジーの双対を与えるPoincare 写像が2つの写像を関連付けると予想している。 また,Lie作用素の同変版を考えることで,LMの同変コホモロジー,Mの巡回的ホモロジー上での振る舞いを明らかにする予定である.これらの結果をまとめて,公開中のプレプリント(arXiv:2109.10536 [math.AT])を改訂し,専門雑誌に投稿する.また本研究推進のためにストリングトポロジーに関連するセミナーや国際研究集会を開催する計画である。
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