研究実績の概要 |
本研究課題ではランダム行列理論における行列モーメントの計算手法や自由確率解析を, 作用素ノルムの計算へ応用する方向で深めていくことを目指している. 特に作用素ノルムの研究は多くの問題に関わっている. ランダム行列のサイズ極限を取ったときにその作用素ノルムの極限と行列のスペクトル分布(経験固有値分布)の極限分布の台の上限が一致するかという問題は非常に大きな関心を持たれ、また統計学や機械学習などへの応用も多い。 ランダム行列のサイズ極限を考えた際のその極限分布の台の上限からはみ出てしまっている少数の固有値をアウトライヤーと呼び、その中にはその行列の多くの情報が含まれている。この現象はBaik, Ben-Arous, Pecheらにより考察され今日BBP相転移と呼ばれ様々な設定で研究が行われている。この研究では佐久間, Leidとの共同研究により以前の研究成果Collins, Hasebe, Sakuma(2018)で発見したアウトライヤーの位置を特定するのに非常に有用な「巡回単調独立」を実現する行列モデルを構成することに成功した。巡回単調独立は、非可換独立の代数的概念で、ランクが小さい行列による摂動があるランダム行列モデルの研究に導入された。非可換確率論的な見方は多くのランダム行列を統一的に扱うことができ、その適用範囲が非常に広い。巡回単調独立の代数的形式は驚くほど単調独立に似ていたため単調独立性との関連が気になっていた。本研究課題で見つけた行列モデルはその操作を変えると単調独立性が現れるようなモデルになっており、その関連性を探る手立てとして有用だと考えられる。また代数的な計算も非常に簡便なモデルとなっている。この結果を論文として、まとめ投稿し、その後改良やより精密な問題の考察をしている。
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