研究課題/領域番号 |
21H00988
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
楠岡 誠一郎 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20646814)
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研究分担者 |
河備 浩司 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (80432904)
星野 壮登 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20823206)
永沼 伸顕 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (60750669)
伊藤 悠 京都産業大学, 理学部, 准教授 (70779214)
田口 大 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (70804657)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 特異確率偏微分方程式 / 構成的場の理論 / 確率量子化 / 確率微分方程式 / マルコフ過程 / マリアヴァン解析 / ディリクレ形式 / ラフパス理論 |
研究実績の概要 |
2021年度は主に、自己相互作用をもつポリマー測度の構成についての研究を行った。このモデルはΦ4量子場モデルと関係があることが知られていて、実際に同じような繰り込みを通じて確率量子場が構成できることが知られていた。このモデルの研究に取り組むことにしたのは、この類似性を用いて以前から行っているΦ4モデルの研究に役立てたいと考えたからである。このポリマー測度の研究は、この話題の専門家と共同で研究を進めていて、現在は3次元の場合のディリクレ形式の構成を目標にしている。これは数十年前にある数学者が亡くなったことにより中途半端な状況で止まっていた先行研究を完成させようというものである。最終的には最近盛んに行われている特異確率偏微分方程式によるアプローチを目指している。 ポリマー測度の研究とは別に、特異確率偏微分方程式における議論に対して、従来の確率解析で行われている議論との違いを明確にするという研究も行った。この研究では、性質の悪い具体的な確率微分方程式を例に挙げ、特異確率偏微分方程式における議論を適用できて良い確率微分方程式の列で近似ができるが、極限の確率過程がマルコフ性を持つが強マルコフ性を持たなかったり、時間局所解の一意性があり、全ての解が時間大域的に拡張可能であるが時間大域解の一意性が無いということが起こり得ることを示した。この話題についてはまだ不明確なことが多く、引き続き研究を行う予定である。 また、前研究課題における研究成果で2020年度に投稿していた論文に対して、査読結果のコメントに応じた修正及び拡張のための研究も行った。これらはΦ4モデルや指数的な相互作用を入れた確率量子場の確率量子化方程式に対する研究であり、投稿論文のうちの1つは学術誌への掲載が決まり、他の論文も掲載決定が期待できる段階に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己相互作用をもつポリマー測度の構成については、先行結果の膨大かつ具体的な計算の部分についてはほぼ理解ができるに至った。さらに先行結果とは違う近似によるポリマー測度の構成や、それに必要な評価の精密化などもできている。一方、ディリクレ形式の構成については1カ所先行結果では本質的に解決できていない問題点があることが分かった。この問題点については何が難しいかなどは既に明確となっていて、今後はこの問題点の解決に取り組んでいくことになる。この点を除いては先行結果の議論が使えることはある程度確かめることができているため、この研究についてはおおむね順調に進んでいると言ってよい状況にあると考える。 また、特異確率偏微分方程式の議論と従来の確率解析の議論の比較に関する研究は、既に研究集会で発表したり、身近な研究者との研究打ち合わせの際に話題に上げたりしているのであるが、とても良い評価を受けている。この話題は長年私自身が持っていた疑問に対してある程度疑問点が具体化できたというものであるが、この疑問点が他の研究者と共有できるようになると、本研究課題の方針に対する評価も上がることが期待される。まだ考察が足りない部分が多々あるが、引き続き考察を進めて論文としてまとめられるような結果にしたいと考えている。 前研究課題における成果をまとめた論文に対して、査読結果のコメントを踏まえた研究によってさらに研究成果が改良されていることも、本研究課題にとって良いことである。これらによって本研究課題から派生する研究対象も次々と明らかになっていくと思われる。 以上のような理由から、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、引き続き自己相互作用をもつポリマー測度についての研究を行う。上でも述べた通り、先行結果における問題点を解決して、3次元の場合のディリクレ形式の構成を目指したい。また、このポリマー測度に対して特異確率偏微分方程式によるアプローチについても考察を進めたい。特異確率偏微分方程式の手法で必要な超関数の正則化による近似を用いることができることは既に確かめてあるため、この研究方針のための準備はできている。現在のところ、ディリクレ形式の構成を先に行う計画であるが、困難な場合は同時に特異確率偏微分方程式によるアプローチの研究も進めたいと思う。 特異確率偏微分方程式の議論と従来の確率解析の議論の比較に関する研究も同時に進めたい。この話題に関しては早く成果を公開して欲しいとの要望も来ているため、できるだけ早く論文としてまとめたい。この研究では、shifted equation と呼ばれる特異確率偏微分方程式の話題で現れる概念に対する考察がまだ不十分である。そのため今年度は shifted equation への考察を深めたいと考えている。そして最終的な目標は、ある程度自然な特異確率偏微分方程式で従来の確率解析の様には議論できないようなものを構成したい。 また、最近は国内の研究者でウィーナーカオスや確率偏微分方程式について独自の観点から研究を進めている人が増えている。彼らの研究は特異確率偏微分方程式に対しての応用が期待できると考えていて、研究分担者と協力して情報収集を行い、必要に応じて共同研究を行いたいと考えている。さらに現在優秀な学生が複数いるため、学生とも共同研究という形で、本研究課題から派生する話題などの研究を手伝ってもらいたいと考えている。
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