研究実績の概要 |
小川教授との共同研究で, 熱方程式の半空間におけるDirichlet 境界値問題およびNeumann境界値問題に対して最大L1正則性を証明した. とりわけ非斉次な境界データに対する関数クラスをTriebel-Lizorkin空間で同定した点が特徴である.この空間は逆に解に対して最適なデータのクラスであることも示された. 凱旋門型Littlewood-Paley分解を時間方向と空間接方向の2進分解を用いて定義し, 境界データを時間優勢領域と接空間優勢領域に分解し,境界ポテンシャルを概直交化するアイデアを用いた.小薗教授, 柳沢教授, Hieber教授, Seyfert博士との共同研究で, 3次元Euclid空間内の滑らかなコンパクトな曲面を境界に持つ外部領域において, 境界に接するものVrと直交するものXrの2種類のLr-調和ベクトル場を考察し, これらの調和ベクトル場の空間がすべての1<r<∞に対して共に有限次元であることを示した. L個の交わらない連結成分をもち, かつ各連結成分の種数をN_j(j=1,..., L)とするとき, Xrの次元はすべての1 < r < ∞に対して N=N_1+...+N_Lである. 一方,Vrの次元はr=3/2を閾値として, 1<r≦3/2のときL-1, 3/2<r<∞のとき Lである.非有界領域である外部領域においてLr-調和ベクトル場をL, Nという幾何学的な位相不変量で特徴づけたと共に, Vrはr=3/2を閾値としてその構造が変化することは,内部領域と外部領域における顕著な差異であるといえる. 小薗教授,Kunstmann教授との共同研究で, 双線形な非線形項をもつ非線形問題の解が, 線形方程式の最大正則性と双線形評価の仮定の下でパラメータトリックによりスケール不変な関数空間に属する解が時空間変数に関してで解析的であることを示した.
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今後の研究の推進方策 |
まず, 半空間からの摂動としてのNavier-Stokes方程式の表面張力や重力を考慮に入れない自由境界問題を考察する. この線形化問題はStokes方程式のストレスフリー境界値問題となる. 熱方程式のNeumann境界値問題に対して証明した我々独自の手法, 即ち, 凱旋門型 Littlewood-Paley分解を用いて, 時間方向と空間法方向, および空間接方向と空間法方向の概直交性を用いることによって, Stokes方程式のストレスフリー境界値問題に対する最大L1正則性を証明する. Langrange 変換により自由境界を固定境界に変換するとNavier-Stokes方程式は準線形な方程式系となり, 最高解微分である流速の空間2階微分と圧力の空間1階微分に対して, 流速の空間1階微分の時間積分の積を係数としてもつ. この流速の空間1階微分の時間積分が最大L1正則性と相性が良く, 非線形項に対する双線形評価を閉じさせることができる. 続いて, 初期境界がフラットではなくグラフ型関数で与えられる場合を考察する. 時間発展と共に境界が変動する自由境界問題を Lagrange 変換によって固定境界問題に変換し, 次に固定境界をフラットな境界に変換する. 変換後のNavier-Stokes方程式は, 準線形な非線形方程式になるのみならず初期境界を係数に含む線形項も現れる.
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