研究課題/領域番号 |
21H00994
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辻井 正人 九州大学, 数理学研究院, 教授 (20251598)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | アノソフ流 / 部分双曲力学系 / 転送作用素 / フーリエ変換 / 波束変換 / 安定葉層 |
研究実績の概要 |
本年度(令和4年度)の研究においては3次元Anosov流の転送作用素の擬コンパクト性および相関の指数的減衰を中心に研究を進めた。この課題については研究代表者の論文「Exponential mixing for generic volume-preserving Anosov flows in dimension three. (3次元体積保存アノソフ流の指数混合性) J. Math. Soc. Japan70(2018), no.2, 757-821)で提案した3次元アノソフ流の安定及び不安定空間の微視的スケールでの記述を与える方法を発展させ、Z. Zhang氏(France, CNRS)との共同研究で3次元Anosov流が混合的であれば指数的に混合的であるという決定的な結果(Bowen-Ruelle予想の解決)を得た。また、それを得るために使った技術は部分双曲力学系の研究としては新しい方向であり、既存の議論と組み合わせることで大きな発展が期待される。そのため、Z. Zhang氏をはじめ、国内外の部分双曲力学系の若手研究者との研究交流を積極的に進めた。一方、F. Faure氏とは以前から続けている波束変換を用いた双曲及び部分双曲力学系の分析に関する基礎的な研究を行い、それらを完成に近づけた。波束変換を使った議論は力学系の性質に応じて波束のスケールを調整することで転送作用素の精密な分析を可能にする。(2本の論文を執筆中であり、1本はレフェリーの段階を通過して掲載予定となっている。)これらの二つの成果は互いに関係し、部分双曲力学系の一般理論を構築する上で非常に重要で、本研究の残された2年間の研究の基礎となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5年間の研究計画について、基盤となる研究は研究実績の欄に記述したようにおおむね計画通りに進捗しており、関係する3本の論文も完成して投稿後の査読中または印刷中である。この点で研究計画は順調に進捗している。また、アノソフ流やその時間を止めた写像の摂動に関する研究についてはすでに基盤となる研究実績をもとに研究を進めている。関連する研究や量子カオスに関係する研究については、関係する研究者と議論を深め、本研究計画の中で何ができるかを構想している段階であり、今後より精力的に研究に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られている二つの大きな成果、すなわち、波束変換を用いた双曲及び部分双曲力学系の転送作用素の分析技術に関する成果(主に F. Faure氏との共同研究)及び、安定及び不安定部分束のtemplate(ある種の正規座標を用いた表現)を用いた安定不安定葉層間の非可積分性の微視的幾何学的な記述およびその摂動に関する成果(主に Z. Zhang氏との共同研究)を基礎にして、部分双曲力学系の一般理論を構成する方向で研究を進めたい。さらに、部分双曲力学系や準古典解析などの分野の研究者と交流を深めることで、本研究の波及効果を高めたい。
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