研究課題
空間反転対称性を持たない点群Tdに属する遷移金属錯体化合物[MnIII(taa)]に関して、磁場中での試料回転に伴う焦電流を測定し二次の電気磁気効果によって発生する磁場誘起電気分極を観測した。[MnIII(taa)]分子は、スピンクロスオーバー転移温度以上の高スピン状態で動的ヤーンテラー効果によって分子歪みを生じ、これが向きの自由度を持った電気双極子を発生する。この分子歪みはスピン軌道相互作用を起源とする単イオン型磁気異方性を介してスピンと結合するため、磁場によって整列する。この整列のため歪由来の電気双極子も配向する。これを反映して電気磁気効果による磁場誘起電気分極が増強されることを明らかにした。電気分極の値は100μC/m2に達し、さらに動的ヤーンテラー効果を持たない低温相の低スピン状態へのスピンクロスオーバー転移によってほぼ消失することが分かった。さらに既知の単イオン型磁気異方性と分子歪み間の強弾性相互作用の値を考慮したモデル計算によって、磁場誘起電気分極の角度依存性、温度依存性及び磁場依存性を定量的に説明できることを示した。また、動的ヤーンテラー効果に伴って現れる分子歪の磁場配向によって比較的大きい大きい磁気キャパシタンスと磁歪が現れることを明らかにした。観測された磁歪は、[MnIII(taa)]分子のヤーンテラー伸張軸が磁場方向に揃うことを反映して一軸伸張型の振る舞いを示すことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
ヤーンテラー歪由来の電気双極子の配向を反映した磁場誘起電気分極の増強の観測とその定量的説明に説明に成功し、また分子歪の磁場配向に由来した磁気キャパシタンスと磁歪の観測が行われるなどおおむね順調に進展している。
昨年度における[MnIII(taa)]の磁場誘起電気分極と磁気キャパシタンス効果、磁歪の観測に引き続いて、電気磁気効果による電場誘起磁化および電磁波の非相反二色性を観測するとともに、動的ヤーンテラー効果に起因する分子擬回転運動のマイクロ波分光による観測を目指す。[MnIII(taa)]は二次の電気磁気効果のため、結晶主軸方向に磁場を加え、更にこれに直交する電場を印加すると磁場に垂直な磁化を発生すると期待される。動的ヤーンテラー歪みが電気双極子と単イオン型磁気異方性を発生させるため、分子が電場と磁場の両方と結合することでこの磁化が発生すると考えられる。この電場誘起の磁化を実験的に観測した上で、[MnIII(taa)]の磁場誘起電気分極を説明した分子モデルに基づいて解析しこれを検証する。また、ネットワークアナライザとコプレーナ回路を用いたマイクロ波分光装置を立ち上げて、動的ヤーンテラー効果を示す系に期待される分子歪の擬回転を観測することを目指す。加えて、光変調弾性器を用いた可視光学測定装置を立ち上げて、[MnIII(taa)]の光学的な二次の電気磁気効果に由来して磁場中で生じると期待される電磁波の非相反線二色性応答を観測する。
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