研究課題
新奇物性の発現には、異元素(ドーパント)の微少量添加(ドープ)で物性を制御することが多く、その場合、格子中で孤立しているドーパントとその周囲の原子構造(局所構造)の静的、動的挙動が、マクロ物性理解の鍵となる。とくに重点スクッテルダイトで代表されるカゴ状物質では、そのカゴ中にある希土類原子の奇妙な振る舞いがマクロ物性に大きな影響を与えることがわかっており、エキゾチックな物性として活発に研究されている。しかし、ドープが格子に与える構造上の影響の観測は、XAFSなど手法が限られることからその理解は十分ではない。申請者は、大強度陽子加速器施設J-PARC(茨城県東海村)において、世界ではじめて白色中性子ホログラフィーを実用化し、軽元素ドーパントの添加が周囲に与える影響、あるいはドーパントが周囲の軽元素の構造に与える影響を研究している。とくにい希土類ホウ化物RB6(R:希土類)に注目した。なぜならRB6のホウ素は共有結合により三次元的なカゴ状構造をつくっており、そのなかでの希土類の挙動が物性に大きな影響を与えているからである。2023年度には、検出効率の増大による原子像精度の向上のため、大強度型のBi4Ge3O12単結晶(BGO)検出器を2本購入し、多検出器系を構築した。これにより2022年度とくらべ、3倍の強度が得られる。この多検出器系を用いて、SmドープYbB6でのSm周りの構造の観測を行い、信頼性の高い原子像を得ることに成功し、その結果を日本物理学会、中性子科学会などで発表した。すなわち、BGOの多検出器系構築は中性子ホログラフィーでの研究に有効であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
2023年度には、多検出器系を構築、測定への導入に成功し、原子像精度の向上を実現した。この技術的な向上により、ホウ素、水素など軽元素の原子像再生という、中性子の重要な役割について大きな進展があった。この結果をうけ2024年度には測定を加速する。また、理想的な実験実現のため、11B同位体を用いた純良単結晶の育成にも成功し、試料の条件も広げることができた。これらの結果は、日本物理学会、日本中性子科学会で発表し、物理学会では学生1名が学生優秀発表賞を受賞し、高く評価された。これらのことからBGOの多検出器系構築は中性子ホログラフィーでの研究に有効であることが示された。それゆえおおむね順調に進展していると判断した。
ここまでの進捗でBGO検出器を用いた多検出器系は精度向上に有効であることが示された。そこで2024年度もBGO検出器を増やし、計画当初に比べ6-7倍の強度増強を行う。そのために、検出器を測定効率よく、かつ再現性よく設置できる専用の大形架台を導入する。この架台には鉛遮蔽体も搭載するため、安全性も重要となる。この多検出器系を用いて、本来の中性子の役割である水素の観測を行う。試料は水素化してもバルク状態を保てるかずすくない結晶であるパラジウム単結晶を用いる。また、冷凍機を多検出器系に整合するように改造し、低温実験を実現する。水素は結晶中で強く熱振動しているので原子像が弱くなることが十分に予想される。その際に100K程度の低温で測定することが、明瞭な水素像を得る上で有効と予想され、重要な技術となる。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 9件) 図書 (1件)
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 1064 ページ: 169349~169349
10.1016/j.nima.2024.169349
e-Journal of Surface Science and Nanotechnology
巻: 21 ページ: 305~309
10.1380/ejssnt.2023-054