研究課題
本研究の究極目標は、準結晶特有の電子状態(超伝導、磁性および強相関効果)の解明とblack-SmSにおけるエキシトン凝縮の実証である。準結晶に関してこれまでに得られた成果を整理し、従来の周期結晶には存在しない(未だ実証されていない)「量子臨界相」とでもいうべき状態が準結晶で発現する可能性を明らかにした。これらの成果を、英文誌 Journal of the Physical Society of Japan の Invited Review Paper に執筆した(2022年3月に脱稿し、2022年6月にオンライン版が出版)。また、価数と磁化率の同時発散/クロスオーバーを示す蔡型近似結晶を見出し、その結果を国際会議で報告した。準結晶超伝導の研究においては、当初の研究計画に従い、これまでに見いだされている超伝導近似結晶とは異なる近似度を有する超伝導近似結晶の探索を行った。その結果、1/1近似結晶と2/1近似結晶の中間の近似度を有する超伝導近似結晶(Al-Zn-Mg 2/1-1/1-1/1)を発見し、国際会議で報告した。残念ながら、試料全体が超伝導状態になるには至らなかったため、良質試料の作成が課題として残された。black-SmSにおけるエキシトン凝縮の実証研究においては、本研究で見出していた低温相転移が「エキシトン凝縮状態においては低温で自発的対称性の破れが発現する」との理論研究の結果と関係づけられることを見出した。理論研究者との(Zoomを通したオンライン)討論により、black-SmSのエキシトン凝縮の実証にさらに一歩近づいたと考えている。
2: おおむね順調に進展している
準結晶の電子状態の解明のためには、超伝導状態だけでなく、常伝導状態における強相関効果等の理解が必要である。そのために進めてきた「準結晶における強相関効果および磁性」に関するレビュー論文の執筆を終え(2021年度3月)、2022年6月にはオンライン上で公開が為された。公開後2か月の間に1000を超えるダウンロードが為され、期待通りの成果が得られた。準結晶における電気伝導解明に関しては、低温で半導体的様相(可変領域ホッピング伝導)を示す近似結晶を発見し、現在、同様の温度依存性を示すAl-Pd-Re準結晶との比較研究を行っている。これらをまとめることにより、準結晶および近似結晶における金属-絶縁体相転移に関する議論を行うことができると期待している。準結晶超伝導(フラクタル超伝導)に関しては、新しい超伝導近似結晶の発見に至ったが、超伝導性はバルクの性質とまでは言えず、さらなる試料の純良化が必要である。black-SmSにおいては、理論研究との比較研究により、エキシトン凝縮の実証に大きく近づいたと考えている。
準結晶に関しては次の2点が課題として残されている。(1)超伝導近似結晶試料の純良化を進め、(2)手持ちの試料を用いた「常伝導状態における電気伝導性と(準結晶に対する)近似結晶の近似度の関係を明らかにする」ことである。エキシトン凝縮に関しては、black-SmSにおける実験結果と理論研究の結果との比較研究を深化させることが課題として残されている。2021年度は(新型コロナの影響により)Zoomを用いた議論に留まり、深い議論を行うには至らなかったので、次年度以降は、対面での詳細な議論を行い、共同研究の形にまで発展させていきたい。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件)
Journal of the Physical Society of Japan
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