研究課題
エキシトン凝縮と準結晶におけるフラクタル超伝導は固体中における未解明問題である。この難問解決を目指し研究を進めた結果、以下の成果を得た。まず、エキシトン凝縮を示すと期待されるblack-SmSに対し光学研究を行い、(1)電流誘起絶縁体金属転移の観測、(2)時間分解X線散乱を用いた光誘起相転移ダイナミクスの観測、および(3)光誘起非線形バンドシフトと価数転移と思われる異常の観測に成功した。これらは、black-SmSにおいてエキシトン凝縮が発現している可能性を示唆するものであり、近年の光誘起相転移研究に新たな光明をもたらすものでもある。また、SmSに対し熱膨張測定を行い、低温で異常が現れること(通常の固体とは異なり温度を下げるにつれ体積が増大すること)を見出した。ただ、熱膨張は測定が難しいため、実験結果が真であるかについてはさらなる研究が必要である。途中経過ではあるが、(高圧下で)熱起電力の測定を行った結果、ゼーベック係数の温度依存性に非フェルミ液体挙動が出現することを見出した。次に、Yb系準結晶および近似結晶の価数揺動と非フェルミ液体状態を調べる過程において、「Au-Al-Yb 1/1近似結晶が量子臨界状態から価数揺動状態へのクロスオーバーを示す」ことを見出した。これは、価数揺動周期結晶の典型例であるSmSには見られていないものであり、準結晶あるいは近似結晶の特性であるとも考えられる。フラクタル超伝導の理解(準周期性が超伝導性に如何なる影響を及ぼすか)に関しては、残念ながら、大きな進展は見られなかった。
2: おおむね順調に進展している
エキシトン絶縁体の候補物質であるSmSの動的性質はエキシトン凝縮が発現していることを強く示唆しており、エキシトン凝縮の実証に一歩近づくことができた。副産物的な成果として、ゼーベック効果に非フェルミ流体挙動が発現することを見出した。フラクタル超伝導については、従来型超伝導との相違点を見つけ出すには至っていない。これが本質であるのか、あるいは実験が不十分であるため見いだせていないのかは不明である。一方、Yb系準結晶の価数揺動性をSmSと比較研究を行ったところ、副産物的成果として、準周期性が価数揺動性に及ぼす影響を明らかにすることができた。
SmSに関しては当初の研究目標であった「エキシトン凝縮の実証」に向かった最終段階の研究を行う。具体的には、低温で発現する異常が電気双極子の秩序であるかを明らかにする。このために、例えば「電流を印加しない状態で温度を下げたとき、電場が自発的に現れるか」を測定する。フラクタル超伝導については、Al-Zn-Mg準結晶および近似結晶の超伝導転移温度が圧力印加とともにどのように変化するかを測定し、その結果を比較検証する。
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