研究課題/領域番号 |
21H01039
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 聡 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10263063)
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研究分担者 |
水島 健 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50379707)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 超伝導 / 重い電子系 / ワイル超伝導 / トポロジカル超伝導 |
研究実績の概要 |
重い電子系超伝導体UTe2の超伝導発現機構解明の基礎となる有効モデルの構築とワイル超伝導物性の探索を行った。主としてU原子のf軌道からなる強束縛近似モデルを構築し、それに基づいて、ワイル超伝導の特徴である異常熱ホール効果の計算を行った。最近の実験から示唆されている異なる既約表現の混合による非ユニタリー対状態を仮定し、点群対称性で許される全ての状態について、異常熱ホール伝導率を計算し、既約表現の混合の比率や、フェルミ面の形状への依存性を調べた。その結果、UTe2の第一原理計算で得られているフェルミ面に対して、対状態の対称性の違いが、異常熱ホール伝導率の振る舞いに顕著に現れることが分かった。この結果は現在、論文にまとめて投稿準備中である。 また、超伝導発現機構を解明するため、この系に特徴的な単位胞当り2つのウランサイトの軌道自由度を考慮した有効モデルを導入し、強磁性および反強磁性スピン揺らぎ媒介の引力による超伝導発現機構を調べるため、基礎方程式を構築した。スピン自由度に加えて、軌道自由度を取り入れたクーパー対状態の点群対称性による分類を行い、超伝導発現機構解明の準備を整えた。 さらに非ユニタリー超伝導に固有のスピンゼーベック効果の可能性について検討した。非ユニタリー・スピン三重項対状態における準粒子が温度勾配の印加によって、スピン流を生み出すことが明らかになった。本結果についても現在、論文にまとめて投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の主目的であるUTe2における超伝導多重相の解明の糸口となる有効ミニマム・モデルを構築することができ、今後、これに基づく理論計算が一気に進むと期待される。スピン自由度に加えて、軌道自由度を考慮することによって、従来考えられてきたクーパー対状態とは異なる多彩な超伝導状態が可能であることが分かってきた。このことが、上述の多重超伝導相の発現と深く関わっていることが期待される。また、この系の超伝導は発見当初より零磁場で時間反転対称性を破った非ユニタリー対状態が実現しているか否かが、研究の焦点となっている。軌道自由度の無い通常の対状態では、常磁性の正常相から非ユニタリー状態への2次相転移は起こらないことがGL理論によって知られているが、軌道自由度を考慮した場合には、この点が自明でなくなることが、本研究によって分かってきており、今後、この問題の解決に向けて大きな前進が期待される。 さらにまた、UTe2に限らず非ユニタリー超伝導一般に対して成立するスピンゼーベック効果の理論を構築することもできた。この効果は今後、UTe2において非ユニタリー状態が実現しているか否かを実験的に検証することに利用できることが期待され、この点でも本研究は計画以上に大いに進んでいると判定できる。
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今後の研究の推進方策 |
構築した有効2軌道モデルに基づいて、スピン揺らぎ媒介の引力による超伝導発現機構の研究を進める。実験では強磁性揺らぎと反強磁性揺らぎが共存していることが示唆されていることから、これらのスピン揺らぎを現象論的なモデルを用いて導入し、それらと遍歴電子が相互作用するモデルに基づいてEliashberg方程式を解析し、超伝導転移温度の計算と安定な対状態の解明を行う。得られた対状態に基づいて、実験で報告されている多重超伝導相の対状態の同定を行う。さらに、それらの超伝導相のクーパー対対称性を実験的に確定するための手法を新たに提案することを目指す。 また、スピン自由度に加えて軌道自由度を有する場合の超伝導状態についてGL方程式を拡張し、非ユニタリー状態への相転移の性質について解析を行う。 さらにまた、非ユニタリー状態を実験的に検出することを可能にする新規輸送現象であるスピン・ゼーベック効果の理論を検討し、温度依存性、磁場依存性等の特徴的な性質を明らかにする。これを具体的にUTe2に応用することによって、将来の実験検出に利用できる結果を得ることを目指す。
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