研究課題/領域番号 |
21H01047
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 正和 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10283459)
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研究分担者 |
田中 秀樹 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (80197459)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 分子シミュレーション / 正四面体分子 / 結晶化 / 多形 / プラスチック相 |
研究実績の概要 |
メタンに代表される、正四面体型の分子の結晶構造を俯瞰的に調査する。水分子は4面体型ネットワークにより、19種類もの結晶構造を持つことが知られており、単成分の単純な物質としては異常に多様な相があると言われている。しかし、水素結合の向きの乱雑性に起因する水素無秩序性の効果を除くと、実質的には6種類(I, II, III, V, VI, VII)の安定結晶相を持つ。一方、水分子よりもさらに対称性が高く単純な分子と言えるメタンには、実に9種類の安定結晶相が知られている。また、単純な分子の結晶構造は単純とは限らず、メタンB相は単位胞に29分子を含み、最も複雑な高圧氷相である氷Vの28分子を凌ぐ超複雑結晶を持つと言われている。四面体型分子の結晶が複雑になる原因の一つは、立体構造のパッキングしにくさにあると考えられる。実際、剛体正四面体の最密充填構造は準結晶になると言われている。メタンを含む正四面体型分子は、球と正四面体剛体の中間構造とみなすことができ、どのように結晶構造が決定されるのかが興味深い。そこで、我々は今年度は手始めに幅広い温度圧力範囲におけるメタンの結晶構造を計算機シミュレーションにより調査し、超高温超高圧条件で実験的に観察されたA相、B相に似た結晶構造が生じること、また面心立方格子のような、球では最密充填となるような結晶構造は、メタンではむしろ低圧でしか生じないことを確認した。今後、さらに長時間のシミュレーションにより、結晶構造の同定と新規結晶構造の探索を行う。それに平行して、メタン以外の四面体分子のシミュレーションに着手する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、初年度は広い温度圧力範囲で分子動力学シミュレーションによりメタンの結晶相を探索した。圧力変化により結晶構造はFCC, BCC, メタンA相、B相のように変化することが確認できたが、高圧では分子運動が遅く、液体を圧縮することで結晶化を促す方法だけではなかなか核生成/結晶成長が起こらないことも多々あり、最終的にどれが安定相であるかを判別するのが難しいことがわかった。また、これまでに開発してきた、ネットワーク構造に基く結晶構造の判別ツールは、氷の結晶には有用だが、メタンの結晶構造を解析するためには改良が必要であることもわかった。安定相の判別が難しい点については、共存法により、あらかじめ液相と安定結晶相が共存する条件から結晶成長させる方法に切り替える。また、構造解析については機械学習の手法などを利用し、ノイズの多い情報から構造情報を抽出することを試みる。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では、実験で得られた結晶構造に近い構造が、計算機シミュレーションでも再現されてはいるものの、完全な単結晶は得られておらず、今後さらに長時間のシミュレーションの後には別の結晶構造に変化する可能性も否定できない。そこで、計算科学研究センター(愛知県岡崎市)の計算機クラスターなども援用し、さらに長時間のシミュレーションを行うとともに、シミュレーション手法を工夫する。また、メタン分子から派生し、より球に近い形状の分子(SiH4など)や、逆により正四面体に近い形状の分子など、仮想的な分子も含めて調査を行い、分子形状の違いが、相図にどのような影響を与えるかを調べる。
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