研究課題/領域番号 |
21H01059
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂本 瑞樹 筑波大学, 数理物質系, 教授 (30235189)
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研究分担者 |
皇甫 度均 筑波大学, 数理物質系, 助教 (00870908)
江角 直道 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20321432)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 重水素吸蔵特性 / タングステン / 表面ナノ構造 / 水素透過 |
研究実績の概要 |
プラズマ対向壁からの水素同位体放出(脱離)特性は水素リサイクリングに密接に関わる課題である。これまでにタングステン繊維状ナノ構造からの低温(<400K)での水素同位体脱離が観測されており、この物理機構を調べるために小型プラズマ生成装置APSEDASを用いて実験を行った。ここでは、10mm×10mm×0.2mmのタングステン試料にヘリウムプラズマを2.5×10^25 He m^-2のフルエンスで照射し、試料温度1300Kで-50Vのバイアス電圧を印加して表面に繊維状ナノ構造を形成した試料、試料温度1150Kで+10Vのバイアス電圧を印加して表面に繊維状ナノ構造を作らずヘリウムバブルのみを形成した試料とヘリウムプラズマを照射しない試料の3種類の試料を準備し、これらの試料を重水素プラズマから約10cm離れた位置に磁場と平行に設置することで重水素原子のみをほぼ室温で照射した。重水素原子を照射した後に、それぞれの試料の昇温脱離スペクトル測定を行った。3種類ともに360K付近に脱離ピークが見られたが、繊維状ナノ構造を有する試料と繊維状ナノ構造はなくヘリウムバブルのみ有する試料の重水素脱離量は、ヘリウムプラズマを照射していない試料の重水素脱離量に比べて、それぞれ120倍と60倍と大きく脱離量が増えることが明らかとなり、ヘリウムバブルの重水素低温脱離の寄与が示された。 さらに、繊維状ナノ構造に重水素プラズマを照射した後、走査透過電子顕微鏡(STEM)-電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いてヘリウムバブルとその近傍からのヘリウムと重水素に起因する信号の解析を行い、ヘリウム密度の低いバブル内もしくはその周辺に重水素が捕捉されていること、試料温度を室温から423Kに上げることで捕捉されていた重水素が脱離することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タングステンの繊維状ナノ構造の重水素吸蔵特性に関して、重水素の低温脱離に関する実験データを体系的に解析し、その物理機構を示唆することができた。さらに、走査透過電子顕微鏡(STEM)-電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いて、繊維状ナノ構造内のヘリウムバブルとその近傍に捕捉されたヘリウムと重水素の密度と温度上昇に対する密度変化に関するデータを得ることができ、繊維状ナノ構造の重水素吸蔵メカニズムに関する考察を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
走査透過電子顕微鏡(STEM)-電子エネルギー損失分光法(EELS)の解析方法を改良して定量的な議論を行う。さらに、試料へのYAGレーザー照射時の高速の表面温度変化を測定するシステムを開発し、これまでに整備した重水素透過プローブ、YAGレーザー照射システムを組み合わせた実験を行い、水素透過に対する間欠的熱負荷の影響を明らかにする。
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