研究課題/領域番号 |
21H01078
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
北嶋 直弥 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50737955)
|
研究分担者 |
木坂 将大 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (10639107)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | アクシオン / 暗黒物質 / 中性子星 |
研究実績の概要 |
本研究では我々の宇宙における暗黒物質の有力候補であるアクシオンに焦点を当て、近傍宇宙に点在する強磁場高密度天体の電磁波観測によってアクシオン暗黒物質の間接検出が可能かどうかを理論的に検証することを目指している。特に中性子星、白色矮星といった天体周りの磁場構造およびプラズマのダイナミクスに関する最先端の知見を取り入れ、それら天体の磁気圏でアクシオンが引き起こす特異な電磁気現象をシミュレーションを駆使して詳細に解析し、期待されるアクシオン由来の電磁波信号を定量的に評価することで観測可能性を明らかにすることを目的としている。以下、研究代表者の北嶋と研究分担者の木坂が2021年度に行なった研究の具体的内容を記す。 代表者の北嶋はアクシオンと電磁場の相互作用系をコンピュータ上の格子空間で解く数値シミューションコードの開発を行なった。当初の計画であった、曲がった背景時空の効果や、現実に則したアクシオンの速度分布を取り入れたコード開発は、テストシミュレーションも含め、成功している。また、アクシオンの自己重力相互作用の効果も取り入れ、ソリトンを形成している場合についてのシミュレーションにも成功した。 分担者の木坂はアクシオン-光子の変換率に対して中性子星磁気圏の現実的なプラズマの状態を考慮した結果、粒子数だけでなくこれまで考えられていないその温度が重要であることを特定した。また、実際の電波観測を想定して観測の研究者との打ち合わせを通して変換率の制限として重要となるターゲットの選定を行なった。 代表者の北嶋と分担者の木坂は1、2ヶ月に一度程度の研究打ち合わせをリモートで行い、緊密な連携を取り続けている。その結果、北嶋が開発したシミュレーションと木坂が指摘する中性子星磁気圏の粒子数・温度の効果を融合する段階まで達した。本成果は速やかに論文にまとめ、発表する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画初年度となる2021年度は、本研究課題を進める上でその根幹を成す数値シミュレーションコードの開発を主に行うことを計画していた。代表者の北嶋はアクシオンと電磁場の相互作用を解析するための既存のコードに改良を加え、中性子星近傍の曲がった背景時空やアクシオンの速度分布など、より現実的なセットアップに対応したシミュレーションコード開発を2021年度の計画としていた。また、アクシオン暗黒物質の形態として、ソリトンを形成している場合についても対応できるような拡張を施すことも計画していた。これらのコード開発は全て完了しており、またテストシミュレーション及び、先行研究との比較も行ない、開発したコードの妥当性のチェックも完了している。一方、分担者の木坂は高エネルギー天体物理的側面の担当として、中性子星磁気圏の現実的なパラメータを採用し、アクシオンが大きく影響しうる条件を満たす天体または現象を整理することを計画していた。現時点において、アクシオン-光子の変換率に対して中性子星磁気圏の現実的なプラズマの状態を考慮した結果、アクシオン検出に有効な物理的条件の特定に成功している。 また、2021年度は最終的に代表者北嶋、分担者木坂の各々の成果を融合させ、単純化されたセットアップのもとで中性子星磁気圏におけるアクシオン起源の電磁気現象を解析する準備までを行う計画であった。実際、北嶋と木坂のリモート会議による緊密な連携の結果、既にその段階に達している。よって本研究計画は概ね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、初年度で開発した、アクシオンと電磁場の相互作用系に関する数値シミュレーションコードを元に、より現実的なセットアップに則した数値解析を行う。特に中性子星近傍でのアクシオンのダイナミクスおよび電波放射過程に関する解析を代表者北嶋が担当し、中性子星磁気圏におけるプラズマの状態、電磁場分布に関する解析を分担者木坂が担当する。最終的には、予言されるアクシオン起源の電波放射が観測によって検証可能かどうか、およびアクシオンのパラメター空間にどのような制限を与えることができるかを定量的に明らかにする。以下、代表者北嶋と分担者木坂の具体的な役割を記す。 代表者北嶋は、初年度において、中性子近傍の曲がった背景時空やアクシオンの速度分布など、より現実的なセットアップに対応する数値シミュレーションコードの開発、およびトイモデルによるテストシミュレーションに成功したため、今後はこれを用いて実際の中性子星磁気圏を想定した数値解析に移行する。また、アクシオン暗黒物質の形態として、重力的に束縛されたソリトンを形成している場合において、中性子星の重力の影響を受けたソリトンがどのような軌道を辿るか、電波放射の予言がどのような変更を受けるかを明らかにする。 分担者木坂は、アクシオン-光子の変換率に本質的であるプラズマの数密度と温度、特に変換が起こる大部分を占める磁気圏の閉じた領域での状態を明らかにすることを目標として、起こるうる主要な物理過程を取り入れた解析的な評価、および磁気圏全体を対象とした数値シミュレーションを行う。 最終的には、上記の木坂と北嶋の解析結果、手法を融合させ、現実的な中性子星磁気圏でのアクシオンによる電波放射のシミュレーションを実現させる。そのため、今後も参画者同士の緊密な連携を保ち続け、シミュレーションの精緻化を随時行なっていく。
|