研究課題/領域番号 |
21H01079
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉川 耕司 筑波大学, 計算科学研究センター, 准教授 (70451672)
|
研究分担者 |
吉田 直紀 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任教授 (90377961)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 宇宙大規模構造 / Vlasovシミュレーション / ダークマター |
研究実績の概要 |
2021年度は,無衝突ではなく有限の散乱断面積を持つ自己相互作用ダークマター(SIDM)モデルの数値シミュレーションに必要な衝突項の計算アルゴリズムの開発とウォームダークマターとニュートリノの大規模なVlasovシミュレーションに向けたコードの整備を行った。 衝突項の計算アルゴリズムの開発については、散乱断面積が粒子間相対速度のべき乗に比例する場合について速度の波数空間でのスペクトル法を用いた実装を行い、解析解との比較等を行うことによって正しく実装されていることを確認した。また、散乱カーネルの対称性に着目しこれまでよりもメモリ消費量が少ない実装を実現することが出来た。更に、この衝突項の計算手法を既存のVlasovシミュレーションに組み込んで衝突項を考慮した数値シミュレーション(Boltzmannシミュレーション)を行う際の様々な時間発展スキームの比較を行い、散乱が効果的になる時間スケール・計算精度と計算コストのトレードオフとして最適な手法を見出した。 大規模Vlasovシミュレーションに向けたコードの整備に関しては、スーパーコンピュータ富岳とOakforest-PACSにおいてコードの最適化・通信やI/Oの効率化を行い良い実行効率と並列化効率を達成することが出来た。特に、最近のプロセッサに実装されているSIMD命令セットを用いたVlasov方程式の数値解法の実装はスーパーコンピュータ富岳において予想外の高い実行性能を達成し、シミュレーション全体の計算時間を大幅に削減することに成功した。この成果をまとめた論文は2021年のACM Gordon-Bell Prize のファイナリストに選ばれた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己相互作用するダークマターの数値シミュレーションに向けた衝突項の計算アルゴリズムは、散乱断面積のモデルに若干の制限はあるものの当初の計画通りに開発を実施し正しい結果が得られていることを確認済みである。Vlasovシミュレーションに向けたコード整備に関してはスーパーコンピュータ富岳やその他のスーパーコンピュータにおいてSIMD命令を積極的に利用した実装を完了し、当初の予想を上回る性能を得ることが出来ている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度に開発した自己相互作用ダークマター(SIDM)モデルの衝突項の計算手法を、Vlasovシミュレーションコードに組み込んでSIDMの数値シミュレーションを行うために、GPUやプロセッサのSIMD命令を用いた高速化を行う。これによってSIDMモデルの数値シミュレーションをより現実的な計算時間で行うことを目指す。 ウォームダークマター(WDM)やニュートリノのVlasovシミュレーションに関しては、2021年度に整備したコードを使ってすでにプロダクションランを実施しており、このシミュレーション結果を用いて科学的な成果を挙げていく。
|