研究課題/領域番号 |
21H01110
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
與曽井 優 大阪大学, 核物理研究センター, 特任教授 (80183995)
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研究分担者 |
堀田 智明 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (30332745)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 光ー原子核反応 / ハイペロン励起状態 / 核媒質効果 / LEPS2スペクトロメータ / 中性子TOF検出器 |
研究実績の概要 |
本研究では、SPring-8のレーザー電子光ビームライン(LEPS2)における大強度のGeV光子ビームを用いて、光-原子核反応により原子核中にΣ(1385)やΛ(1405)、Λ(1520)といったハイペロン励起状態を生成させ、既設の大立体角スペクトロメータに新たに前方中性子検出器を加えて生成と崩壊に関与する粒子を捉え、測定された質量スペクトルを自由空間での質量や崩壊幅と比較して質量獲得機構やハイペロン励起状態と核子との相互作用を調べることを目的とする。 令和4年度は令和3年度に完成させた中性子飛行時間(TOF)検出器アレイをLEPS2ソレノイド・スペクトロメータ実験の標準データ収集システムに組み込み、液体水素標的及び液体重水素標的を用いてデータの取得を行った。SPring-8の2022Aユーザータイムにおいて取得されたデータでは、大きな信号がADCに入力された場合にその事象の後、短時間正常なデータが取得できていないことがあることが判明したが、新たに3dBの減衰器をADCの入力直前に挿入し、各シンチレータからの信号波高を最適化するように再度供給電圧を決定することによって、後半の2022Bユーザータイムの実験においてはほぼ問題なくデータが取得できた。実験解析プログラムも順次整備され、タイムプロジェクション・チェンバー(TPC)と側方抵抗版チェンバー(BRPC)のデータによって導出された運動量と飛行時間からK中間子を選択することに成功しており、予備的な結果ではあるが、その欠損質量分布からハイペロン及びその励起状態のスペクトルを得るところまで解析が進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画は、「R3年度に完成した中性子飛行時間(TOF)検出器アレイからの信号を標準のLEPS2スペクトロメータ用データ収集システムに取り込み、先ず液体水素標的を用いたLEPS2実験において各検出器の較正を行い、その後、液体重水素標的を用いた実験を遂行し前方中性子放出を伴うハイペロン励起状態の測定を行う」であり、研究実績の概要で述べたように、ほぼこの計画に沿って研究が進んでいる。前期に取得したデータにおいてADCが一部異常な振舞いを示していることが判明したが、減衰器を導入することによってその問題も解決でき、LEPS2ソレノイド・スペクトロメータの他の検出器に関しても、ほぼすべてが整備され、液体水素・重水素標的を用いて取得された実験データから各検出器の較正や物理データの解析が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に関しては特に当初計画からの大きな変更はない。液体重水素標的に対するデータの統計を更に上げるために継続して実験を行うとともに、これまで取得したデータの解析を進め、各検出器の較正と液体重陽子標的からの前方中性子放出を伴うハイペロン励起状態の同定を行う。一方、中性子TOF検出器からの信号が中性子によるものか荷電粒子によるものかを区別するためには、ドリフトチェンバーや前方抵抗板検出器などの他の検出器からの情報が必要であるが、解析が複雑で時間がかかっており、より容易に荷電粒子を区別するために中性子TOF検出器の直前に新たに別のプラスチック・シンチレータ・アレイを設置することを計画し、他の実験で使用された既存の検出器の移設を進める。その後、標的の変更時期はLEPS2実験の主目標であるエキゾチック・ハドロン粒子の研究を中心とする物理実験の進捗状況にも依るが、標的を原子核標的に変更し、本研究課題の主目的である核媒質中でのハイペロン励起状態のスペクトルの測定を目指す。 尚、本研究は研究代表者、研究分担者で密に協力しながら遂行するが、與曽井が主に研究全体の総括とスケジュール管理を行い、堀田が本研究の主要装置となる中性子TOF検出器を担当する。本研究の遂行に必要なLEPS2スペクトロメータの運転や長期に渡る実験はLEPS2グループの全面的な協力・支援を受けて実施される。
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