研究課題/領域番号 |
21H01126
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三澤 透 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 教授 (60513447)
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研究分担者 |
柏川 伸成 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00290883)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | AGNアウトフロー / AGNフィードバック / 共進化 / 活動銀河核 / クェーサー吸収線 |
研究実績の概要 |
本研究課題の一つ目のテーマである「高速BALの物理的性質の調査」について、世界主流の8-10メートル級望遠鏡を用いた長期モニター観測を特定のクェーサーに対して行った。このクェーサーのスペクトル上で検出されたアウトフロー起源の吸収線の時間変動傾向は、同期するものとしないものが混在しており、その変動メカニズムが単純でないことを示唆する。様々なアイデアを検討した結果、この変動パターンについては、ガス運動と電離状態変動のハイブリッドシナリオで説明できることを確認した。また、AGNフィードバック効率については上限値しか置くことができなかったが、その値はホスト銀河の星形成活動を抑制するのに十分な大きさであり、他波長(X線~ミリ波・サブミリ波)でみられる効率に匹敵するものであった。いずれも、波長横断的なフィードバック効率の普遍性を示すものであり、本研究の設定課題の解明に向けた重要な成果であるといえる。 クェーサーからの強烈な紫外輻射が近傍の銀河間ガスを過剰に電離する「近接効果」は、数Mpcにおよぶ大スケールのフィードバック効果として知られる。この近接効果の特徴を調査する研究も集中的に行った。具体的には、遠方宇宙における再電離の非一様性の原因解明、およびクェーサー近傍の近接効果の非等方性の原因解明を目的としたものであり、それぞれ学術論文として報告した。特に後者については、クェーサーの周囲に形成される「ダストトーラス」が近接効果の非等方性の原因であることを示唆する内容となっており、活動銀河核の内部構造の検証という点においても興味深い結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画全体としては順調に進んでおり、データ解析コードの開発、高速BALクェーサーの物理量評価、およびクェーサーからの紫外輻射による大スケールフィードバック調査は、いずれも学術論文として報告済みである。一方で、本研究課題の二つ目のテーマである「アウトフロー起源の幅の狭い吸収線 (NAL) に対する加速度測定」については、従来のデータ解析手法でも問題ないことが分かっているが、念のため別の方法を試したところ、解析済みデータのクオリティにわずかな向上がみられたため、一部データについては再解析を行うことを決めた。それに伴い進捗状況を「やや遅れている」に変更したものの、これは前向きな遅れであるといえる。計画全体としては研究員の雇用によりその進度が飛躍的に上昇した。アーカイブをもちいた膨大なデータの収集、追加データの取得、および一部データに対する予備調査はすでに始まっており、一連の解析手法が確立されれば、あとは機械的にデータ解析を進めるだけである。現状での先行きは明るく、速やかな研究計画の進捗が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
一つ目のテーマ「高速BALの物理的性質の解明」については、すでに特定の天体に対する調査を終えているが、次のステップとしてサンプル数を増やした統計調査が不可欠である。継続的な観測を実施すべく、すばる望遠鏡、欧州超巨大望遠鏡 (VLT) といった世界主流の8-10メートル級望遠鏡に観測提案を申請したところ、いずれも採択、そして実施されていることから、本研究課題の重要性は計画提案時から変わっていないことが伺える。本研究で設定した二つの研究テーマを遂行するための膨大な一律データは、まもなく揃う見込みである。その後、紫外アウトフローの生成(加速メカニズム)、現状(加速状況)、行く末(フィードバック効果)の統計調査に着手し、いよいよ本研究課題の本丸ともいえるAGNアウトフローの全貌解明に挑戦する予定である。
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