研究課題/領域番号 |
21H01157
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中村 啓彦 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50284914)
|
研究分担者 |
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (60709624)
仁科 文子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (80311885)
井上 龍一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (80624022)
堤 英輔 東京大学, 大気海洋研究所, 特任助教 (70635846)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 黒潮 / 東シナ海 / 乱流 / 近慣性内部波 / 東アジアモンスーン |
研究実績の概要 |
これまでの私たちの研究から,東シナ海の黒潮の乱流強度は,冬季に強くなる季節変動をしていることが推測された。この季節変動の原因として,1)冬季の黒潮の不安定化に起因して沖縄トラフの中深層で低気圧性渦が発達し,2)陸棚斜面域に渦位が局所的に負になる領域(流れが海底斜面を右に見る領域)が形成され,3)対称・慣性不安定から高鉛直波数の近慣性内部重力波が射出され,4)水平流鉛直シアーが強化されるため鉛直混合が活発化する仮説を提案した。本研究の目的は,このプロセスを証明することである。プロセスの証明は,主に観測的に行い,観測では証明できない点に関して補足的に数値計算を導入する。
A)観測: 2020年6月,沖縄本島西方の黒潮流域の4地点に,韓国海洋科学技術院とソウル大学との共同観測の一環で,多層式超音波流速計(ADCP/75KHz)を設置し「マルチスケール黒潮観測網」を展開した。2021年6月に実施した鹿大水産学部練習船「かごしま丸」の乗船実習航海で,これら4台のADCP/75KHzを一旦回収し電池交換したあと再設置した。2021年6月の航海で回収した4台のADCPデータを解析し,冬季の黒潮の不安定化に連動して乱流エネルギー源となる近慣性内部波エネルギーが増加する様子を確認した。同海域の過去のXBTデータを調べたところ,興味深いことに,近慣性内部波エネルギーが増加する中層(400-600m深)で大規模な水温逆転が起っていることがわかった。この結果を,日本海洋学会2021年度秋季大会で発表した。
B)数値計算: 一連の現象を再現するために,Regional Ocean Modelling System(ROMS)を用いて,超高解像度数値シミュレーションモデルの開発をはじめた。モデルが動作するコンピューター環境の構築はできたが,現象を再現可能なモデルの完成には至っていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べた通り,韓国海洋科学技術院とソウル大学との共同観測の一環で,多層式超音波流速計(ADCP/75KHz)の係留観測網(「マルチスケール黒潮観測網」と呼称)の構築と維持は順調に進んでいる。また,観測から得られたデータ解析に基づいて,仮説検証も順調に進んでいる。この点では研究は極めて順調に進行しているが,一方,超高解像度数値シミュレーションモデルの開発がやや遅れている。この研究は,観測と数値計算からの結果が融合することにより,画期的な成果が得られると考えているので,評価として「やや遅れている」を選択した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後,観測と数値計算を以下のように実施する計画である。 A)観測: 韓国海洋科学技術院とソウル大学との共同観測を継続し,「マルチスケール黒潮観測網」を2024年6月まで維持する計画である。2022年6月の「かごしま丸」航海で,乱流現象の発生傾向を年間通して観測するために,サーミスター・ストリング(24個の水温計を3m間隔で繋いだシステム:乱流に伴う水温逆転現象を観測)をマルチスケール黒潮観測網に組み込む。サーミスター・ストリングを2023年6月の「かごしま丸」航海で回収するので,2023年度後半には,4台の多層式超音波流速計(ADCP/75KHz)からわかる黒潮と近慣性内部波エネルギーの季節変動,サーミスター・ストリングからわかる乱流強度の季節変動の一連のエネルギーカスケード(研究実績の概要参照)に関する観測事実を整理できる。 B)数値シミュレーション: 2022年度中に超高解像度数値シミュレーションモデルを開発する。このモデルは,現在,沖縄トラフの海底地形を理想化した水路モデルとして作成している。この水路モデルをネスティングして水平解像度が200m程度の超高解像度数値シミュレーションを実現し,できるだけ2022年度中に,陸棚斜面近傍の黒潮下層で対称・慣性不安定から高鉛直波数の近慣性内部重力波が射出されるかどうかを確かめる。2023年度以降は,観測結果と比較しながら,計算結果の解析を進める。さらに,余力があれば,現実の沖縄トラフの地形に基づくモデルの開発を行い,沖縄トラフでの黒潮のエネルギー収支を明らかにすることを予定している。 最終年度の2025年度には,これらの成果を合わせて論文を投稿する。
|