研究課題
マグマを噴出しない「水蒸気噴火」は、国内でも平均して年間1件以上の頻度で発生し、御嶽山2014年噴火と草津白根山2018年噴火では貴い人命が奪われた。過去のデータによると、水蒸気噴火発生後の中長期的推移は、①数ヵ月以内で終息するパターン、②半年~数十年間断続的に発生するパターン、③規模の大きなマグマ噴火に移行するパターン、に分かれる。本研究では、より甚大な被害につながる③に焦点を当て、「最初の水蒸気噴火発生時点でマグマ噴火に移行するかどうかを物質科学的に予測すること」を目指し、その予測手法の確立を目的とする。これまでに、那須茶臼岳火山を対象に最近約5000年間に発生した多数の水蒸気噴火堆積物の試料を採取し、主に粒度分析、デジタルマイクロスコープ・偏光顕微鏡分析およびX線回折装置(XRD)による分析を行って、パターン③の噴出物に含まれる熱水変質鉱物の種類と特徴を明らかにした。その結果、パターン③の噴出物には熱水変質鉱物として、特徴的にミョウバン石が含まれることが分かった。また、パターン①・②の噴出物に比べて、パターン③の噴出物には、より多くの石英、斜長石が含まれる傾向も認められた。XRD分析においては、それぞれ、2θ=27°, 28°,29°-30°周辺に回折ピークを持つ、石英、斜長石、ミョウバン石の存在を推定できた。ただし、各種鉱物の定義は、化学式と結晶構造で決定されるものであり、特にミョウバン石は、強酸性・高温条件で晶出する「Caミョウバン石」の存在までは明らかにできていないため、これらをSEM-EDSなどで同定することを次年度以降の課題とした。また、研究対象火山を広げて、福島県の吾妻浄土平火山の歴史時代噴火の噴出物を対象に調査と分析を行った。その結果、最新(江戸時代)の噴出物がパターン③に該当し、次年度以降の研究題材として最も適切であることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
上記の通り、パターン③の噴出物に含まれる熱水変質鉱物の特徴的な組み合わせ(ミョウバン石、石英、斜長石)の概要は明らかとなっている。同時に、今後は、各種鉱物、とくにミョウバン石の詳しい化学組成をSEM-EDSで明らかにすること、および、研究対象地域を国内外に広げて比較研究を展開すること、を課題点として明確に設定できている。R6年度は、既存の試料についてSEM-EDS分析を進める。また、研究対象地域として、国内は福島県の吾妻火山、海外はインドネシアのディエン火山またはカメルーンのマヌン火山を対象とし、野外調査、室内分析および比較研究を行う予定である。上記の研究計画を遂行することで、当初の研究目的は概ね達成できると考えている。
令和6年度は、課題研究事業の最終年度である。本事業予算で購入・アップグレードした最新型のSEM-EDSを活用し、まずは那須茶臼岳火山の試料について、パターン③の噴出物に特徴的な鉱物組み合せ(= ミョウバン石、石英、斜長石)を、化学組成データなどから詳しく識別・同定・解析する。ミョウバン石については、カルシウムに富む「Caミョウバン石」の含有量とその産状・形態の特徴を高分解能で明確にする。那須茶臼岳火山で、パターン③噴出物に含まれる鉱物の組み合わせやその化学組成・産状・形状などの特徴を概ね決定することができたならば、研究対象火山を広げて同様の分析を行い、那須茶臼岳火山との比較研究を行う。この比較研究によって、本研究で開発した分析手法の汎用性をチェックし、より普遍的な噴火推移予測法の確立に近づくことができる。特にXRD分析とSEM-ED分析を組み合わせたCaミョウバン石の識別・同定法を確立し、那須茶臼岳火山の水蒸気噴火堆積物について十分なデータを蓄積した上で、その手法を国内外の他の火山にも適用して、本手法の有効性をチェックする。この比較研究によって、より多くの火山に適用可能な噴火推移予測法モデルを構築できることが期待できる。また、本研究で確立した分析法や噴火推移予測法は、国内外に広く公表することで、利用範囲が広がり、社会的な貢献度を高めることができる。このため、ある程度の成果が得られた段階で、できるだけ早くそれらを学術大会や原著論文で発表し、世界中の研究者らとの情報共有および議論を行っていく。最終的には、国内で水蒸気噴火が発生し、本研究で確立した推移予測法を実践する機会を得た場合、ただちにその噴出物を採取し、噴火推移予測の実践を行いたい。ただしこのような機会は、国内で水蒸気噴火が発生し、その噴出物を安全に採取できる条件が揃った場合に限られるため、オプションとして位置付ける。
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