研究実績の概要 |
近年の研究により、沈み込む海洋プレート表面でスロースリップが発生すると、プレート境界に溜まっていた水が上盤プレートへ放出されることが明らかになってきた。茨城県南西部のフィリピン海プレート境界においては繰り返し地震をふくむプレート境界地震が多く発生し、その地震活動の直上で地殻内地震も発生している。これらの地震活動は約1年周期で繰り返し起こっており、それらはプレート境界から放出された水が原因で発生していると解釈されている。しかしながら、放出された水の移動過程やその分布域などの理解は十分でない。今年度は昨年度までに推定していたQs構造を再精査することで、プレート境界地震とその直上の地震間のQp, Qsの高精度推定を行い、Qp/Qsの時間変化を明らかにした。得られた結果によれば,Qp/Qsは約1年周期で時間変化し,その大きさはプレート境界でのすべりレートに対応する。つまり大きなすべりが生じた期間はQp/Qsが大きいという特徴がある。プレート境界から流体が供給されると、その経路上に存在するクラックに充填され,そこでミクロスケールでの流体の移動が生じると考えられる。今回推定したQp/Qsの時間変化はプレート境界からの水の供給レートに起因すると考えるとその周期性を説明できる。一方で、流体を含むクラックの存在範囲やその休刊スケール(特徴的な長さ)などに関する情報は得られていない。今後は固液複合系の理論的・実験的研究を取り入れながら結果の解釈を行っていく予定である。
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