研究実績の概要 |
茨城県南西部のフィリピン海プレート境界においては繰り返し地震をふくむプレート境界地震が多く発生している。また、その地震活動の直上で地殻内地震も発生しており、先行研究によって約1年周期での水の放出が起こっていることが示されている。しかしながら、放出された水の移動過程などの理解は十分でない。今年度は昨年度までに推定していた減衰構造について論文を取りまとめ国際誌に投稿した。査読者とのやりとりの中で解析結果を再精査し、最終的に国際誌で受理・出版された。 さらに媒質のサイズ依存を調べるために、複数の周波数帯域(1-4, 2-6, 4-8Hz)で地震波異方性解析を行い、その時間変化の検出を行った。得られた結果によれば,地震波異方性は減衰と同様に約1年周期で時間変化し、その大きさはプレート境界でのすべりレートに概ね対応する。つまり大きなすべりが生じた期間は異方性が大きいという特徴がある。プレート境界から流体が供給されると、その経路上に存在するクラックに充填され、開いているクラックの密度が変わると推測される。今回推定した異方性の時間変化はプレート境界からの水の供給レートに起因すると考えるとその周期性を説明できる。また、クラック密度・サイズと異方性の大きさに関する理論式を用い、異方性の周波数依存から異方性の原因となるクラックのサイズを推定したところ、メートル単位のクラックが存在すれば解析結果を説明できることも明らかになった。なお、異方性は北東-南東方向であり、関東地方の広域応力場の方向とほぼ一致する。このことは、広域応力場によって選択配向したクラックが異方性の原因であることを強く示唆している。
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