研究課題/領域番号 |
21H01188
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
WALLIS R・Simon 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (30263065)
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研究分担者 |
纐纈 佑衣 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (20726385)
武藤 潤 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40545787)
遠藤 俊祐 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (60738326)
森 宏 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (80788183)
青矢 睦月 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (90415638)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 応力 / 沈み込み帯 / 三波川変成作用 / 石英粒径 / EBSD測定 / 温度圧力経路 / 熱モデリング |
研究実績の概要 |
1)東北日本白亜紀横ずれ断層系に属する社地神剪断帯沿いに産するカルサイトmyloniteの微細組織観察を行い、流動応力や変形温度の推定を行った。また、現実的な圧力・温度勾配を用いて、地下の様々な深さにおける長石・石英ガウジの摩擦実験を行い、変形強度・変形特性や微細組織を比較した。 2) 三波川変成帯の低変成度域(中部地方および紀伊半島)を対象に野外調査と室内分析を行った.野外では岩相分布・地質構造の基礎データ収集と分析用の試料採取,室内ではラマン分光分析による被熱温度推定を実施した.3)徳島県三波川帯の青色片岩の角閃石組成累帯構造を吟味し,温度-圧力(T-P)図上で緩傾斜から急傾斜へと急激にdP/dTが変化する,摩擦係数の大きな構造境界での沈み込みに特徴的なP-T履歴を示唆するデータを得た.4) 2021年度は中部地方三波川帯に着目し,ラマン温度圧力計を用いて緑泥石帯からザクロ石帯に相当する低変成度部の温度圧力条件の解析を行った.その結果,同地域の最高温度圧力条件は,0.76-0.93 GPa/360-390℃と制約された.5)温かい沈み込み境界の岩石構造をよく保存する地域として,鳥取県日南町(ジュラ紀の周防変成帯)と愛媛県西条市~東温市(白亜紀の三波川変成帯)で地質図作成を行った.日南町では前弧マントル蛇紋岩のBlock-in-matrix構造の特徴を記載した.三波川帯では低変成度部の泥質岩と苦鉄質岩の変形と交代作用に伴うhybridizationを調べた.6)三波川変成帯の汗見川地域において石英片岩の岩石試料を採取した。それらの薄片の組織観察を行い、定常組織を示すと考えられる領域を特定した。また、これらの領域について後方電子散乱回折により結晶方位マッピングをおこなった。約80%の指数化に成功した。その結果粒界を特定し、粒径を算出し、既存の応力計を適応した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
このプロジェクトの目的は、沈み込み型変成帯に記録されている古沈み込み帯内の応力分布を推定することである。三波川帯の限られた数の試料から、信頼性の高い応力推定値を得ることにむけて確実な成果を上げてきた。その結果、かなり純度の高い石英試料のみが信頼できる結果を示すことが明らかになった。石英以外の鉱物が大きな影響するために、石英を主成分とする変形領域を選別することが重要であることが判明した。そのような試料を四国中央部の汗見川ルートで特定することができた。また、他の地域でも試料を採取した。これらの試料から、古沈み込み帯内の異なる深さと走向に沿っての応力の空間分布を理解するための分析が必要である。特定の深さにおける応力の推定に関連付けるには、変形の温度を決定することが重要である。温度推定の一つの方法は、石英C-軸のクロスガードル型の開口角を利用することであり、これは我々がこれまで適用してきた方法である。この温度推定は、異なる岩相(泥質片岩など)から得られた圧力-温度経路の知識と組み合わせることで、変形の圧力、つまり沈み込み帯における「深さ」を決定することができる。石英のTi含有量を測定し、これを個々の石英粒の再結晶温度の推定値として利用する方法がある。この測定には、特殊な装置と技術が必要であり、国内での測定は困難である。新型コロナウィルスパンデミックのため、当初予定していた米国での測定はできなかった。 応力のもう一つの推定法として、沈み込むスラブなどのプレート運動や年代について十分な制約がある地域で熱モデルを行い、沈み込み帯の温度構造を推定し、実際に岩石が記録した温度条件と比較することである。ここでは、ピーク条件だけでなく、P-T経路をモデル予測値と比較することが重要である。このアプローチは、高応力状態(三波川帯)と低応力状態(フランシスカン帯)の例を特定するのに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
次の重要なステップは、応力解析に適した石英を多く含む変形岩の岩石試料を特定し、測定データを増やすことである。そのためには、研究グループのメンバーによりすでに調査済みである適切な地域で、追加フィールドワークを行い、新しい岩石試料を採取する必要がある。岩石試料は、さまざまな変成グレードのものと、研究対象となっている変成帯内のさまざまな地域をカバーすることが重要である。このように選別した試料の測定結果を組み合わせることで、古沈み込み帯境界に沿った 2 次元応力分布の特定することが可能になる。まだ改善の予知のある主要な課題の一つは、変形時の温度の推定をより正確に行うことにある。そのために、ルチルを含む試料に着目し、Ti-in-quartz 温度計を適用する予定である。海外渡航の制限が許せば、本年度の後半にアリゾナ州立大学で測定を行う予定である。応力の推定は、石英を多く含む試料の粒径とその分布に基づいている。この粒径を測定するために、我々は東京大学に設置されたWフィラメントを用いた低真空SEM-EBSDシステムを使用している。測定における空間分解能が結果に大きな影響を与えていないことを確認するために、東北大学に設置されているフィールドエミッションSEMを用いて既にW-SEMでの測定が完了した試料の再測定を予定している。同様な作業から得られた応力推定値を沈み込み帯の深度に関連付けるためには、沈み込み型変成帯のP-T経路に関する正確な情報が鍵となる。多くの場合、これらのP-T経路に関する信頼できる情報が既に得られているが、不確定様子はまだある。そのうち大きな誤差の原因となっているのがFe(II)/(III)値の推定値の不確実性である。今後、Fe(II)/(III)比の直接測定を行い、既に得られている温度の推定値を改善する予定である。
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