研究課題/領域番号 |
21H01194
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
石川 剛志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 研究所長代理 (30270979)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 地震 / 断層 / 地球化学 / 流体岩石相互作用 |
研究実績の概要 |
流体存在下での地震断層の動的な強度低下(弱化)プロセスを化学的な視点から明らかにする目的で、以下の研究を行った。 (1)四万十付加体和歌山日高地域のアルバイト(Na斜長石)を含む断層岩および母岩の微量元素濃度およびストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)のデータ解析を行った。その結果、断層岩の持つ組成的特徴が、地震時の350℃程度の高温流体岩石相互作用とそれに伴い晶出したアルバイトの増加の2つの要因の組み合わせで説明されることが分かった。データは、同じ断層で繰り返し地震滑りが発生し高温流体岩石相互作用による弱化が起こったことを示唆している。また、それらを包括的に説明する地球化学モデリングの構築に着手した。 (2)比較的高温のプレート境界断層のアナログと見なすことができるオマーンオフィオライト底部の変成岩(メタモルフィックソール)について、得られた微量元素・同位体組成の深度変化の解析および鉱物相平衡に基づくモデル計算の2つの手法でスラブ流体の組成を見積もり、それらの比較を行った。その結果、モデル計算に改良の余地はあるものの、概ね整合的な結果を得て、プレート境界断層に沿って輸送されるスラブ流体の化学的特徴についてのリファレンスが得られる見通しが立った。 (3) 沈み込むプレートから放出される流体の同位体特徴解明の一環として、日本各地の鉱脈型硫化物鉱床の硫化鉱物(方鉛鉱、閃亜鉛鉱等)の高精度鉛同位体分析を行い、鉱床を作った流体の起源を推定した。その結果、流体は基本的には鉱床の母体である沈み込み帯マグマと同源(すなわち元々は沈み込むプレート由来の流体起源)と考えられ、沈み込み帯の時空変化を反映していることが明らかとなった。成果は論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
四万十付加体の断層岩の微量元素・同位体分析に基づく研究では、高温流体岩石相互作用とアルバイト晶出が同一断層で繰り返されたことが地球化学モデリングにより明らかになってきた。これは、同じ断層が繰り返し地震滑りを起こし、そのたびに高温流体による弱化が生じたことを示唆している。 オマーンオフィオライトを用いたプレート境界断層流体の研究では、分析に基づき見積もられた流体組成を鉱物相平衡モデルから見積もられた流体組成と比較対照させることで、プレート境界断層流体の化学的特徴が明らかになりつつある。 また、日本の鉱脈型硫化物鉱床の鉛同位体比を広範かつ系統的に精密測定することで、鉱床形成に寄与した、沈み込むプレート由来と考えられる流体の同位体組成の時空分布を求めることができた。 以上のように、地震時の断層帯に存在した沈み込むプレート起源の流体、および、そこで生じた流体岩石相互作用と弱化についての地球化学的理解と実像把握が進んできており、研究の進捗は概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
陸上付加体等に存在する断層試料の主成分・微量元素分析および同位体分析については、前年までに得たデータを補完・補強する観点から集中して行い完了させる。それらの結果に基づきプレート境界の地震発生帯およびその周辺における流体岩石相互作用の実態を明らかにするための解析を行う。そのうち、四万十付加体日高地域の断層帯については、包括的な地球化学モデリングを完成させて解析結果を取りまとめ、流体存在下での地震断層における弱化プロセスの考察を行う。オマーンオフィオライトの変成岩の化学分析に基づく研究では、プレート境界断層に沿って上昇する流体の微量元素・同位体組成の特徴について1つの確立されたリファレンスを作成する。 取りまとめた成果は学会および論文で発表する。
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