研究課題/領域番号 |
21H01200
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (10321720)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生命の起源 / 原始タンパク質 / プレバイオティックアミノ酸 / 触媒 / RNA結合タンパク質 / リボソーム蛋白質 / ヌクレオシドニリン酸キナーゼ / ATP生成 |
研究実績の概要 |
「生命の起源」に関してRNAワールド仮説に関する研究は世界中で精力的におこなわれている。全生物最後の共通祖先に関する研究も進んでいるが、この間をつなぐ研究は必ずしも十分に進展していない。そのような研究課題の一つが、タンパク質がどのように誕生したかである。本研究では、「RNAワールドにどのようにタンパク質が誕生したか?」に答えることを目指し、宇宙から運ばれた可能性のあるアミノ酸種、あるいは、原始地球環境において化学進化によって合成された可能性があるアミノ酸など、生物誕生以前の原始地球で利用できたと推測されているアミノ酸種だけから機能を持ったタンパク質を合成することを試みることにより、原始タンパク質の少数種類アミノ酸組成の可能性を検証している。 これまでに、13種類のアミノ酸からリボソーム蛋白質uS8を再構成した改変体であるP_Bac-13Nを合成したので、BLItzシステムを用いて、P_Bac-13NとRNAとの結合を定量的に評価するための解析も実施した。この結果も含めて、国際誌に論文報告した。 また、祖先型ヌクレオシドニリン酸キナーゼからアミノ酸種類を減らすと、本来の触媒活性とは異なる、2分子のADPからATPとAMPを生成する反応を触媒することを示してきたが、さらに、ADP以外のヌクレオシドニリン酸、すなわち、GDP、UDP、CDPが基質になるか検討した。その結果、ADPのみが基質になることを示した。また、2ADP→ATP+AMPだけでなく、逆反応であるATP+AMP→2ADPが触媒されるかも検討したところ、逆反応は触媒されないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、宇宙で生成され原始地球に運ばれた可能性のあるアミノ酸種、宇宙起源の有機物を出発として原始地球で生成された可能性のあるアミノ酸種、あるいは、原始地球において化学進化によって合成されたと指摘されているアミノ酸種などを用いて、RNA結合や化学反応の触媒などの機能を持ったタンパク質が合成可能か検討することを目的としている。2022年度までに、祖先型リボソーム蛋白質uS8を出発点に13種類のアミノ酸からRNA結合活性を持つタンパク質を合成し、論文報告した。加えて、生命誕生以前の原始地球にも比較的豊富に存在したと推定されていることからしばしばプレバイオティックアミノ酸と呼ばれる10種類のアミノ酸と塩基性アミノ酸を用いて、ADPからATP合成を触媒する活性を持つタンパク質を合成できることを示し、さらに、ADP以外のヌクレオシドニリン酸が基質にならないこと、逆反応を触媒しないことも明らかにした。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、祖先型ヌクレオシドニリン酸キナーゼから利用するアミノ酸種類を減らしていく過程で、酵素活性が変化することを見出した。そこで、活性が変化した少数アミノ酸種類で合成した酵素の結晶構造解析を進め、決定した構造と部位特異的変異解析によって、新しい反応を触媒するメカニズムの解明を目指す。 さらに、10種類のプレバイオティックアミノ酸に塩基性アミノ酸を加えた11~12種類のアミノ酸だけから合成したタンパク質に含まれる22残基の塩基性アミノ酸残基を出来る限り減らすことも試みる。ただし、塩基性アミノ酸の減少はタンパク質全体の電荷を負に偏らせることになり、安定性や酵素活性に大きな影響を与えることが予想される。そこで、溶媒条件の検討、特に金属イオンやポリアミンの添加などの効果の検討を同時におこなう。 得られた研究成果は論文発表するとともに、生命の起原および進化学会等で口頭発表する予定である。
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