研究課題/領域番号 |
21H01316
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
金澤 誠司 大分大学, 理工学部, 教授 (70224574)
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研究分担者 |
市來 龍大 大分大学, 理工学部, 准教授 (00454439)
立花 孝介 大分大学, 理工学部, 助教 (10827314)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 励起窒素 / 放電 / レジリエンス作用 / レーザー誘起蛍光法 / ストリーマ |
研究実績の概要 |
本研究では、空気を構成する最も重要な分子である「窒素」に注目して、放電による励起窒素の生成と反応素過程の解明を目指している。研究初年度では、放電で直接発光はしないが、エネルギーが6.2 eVあり、下位の基底準位には禁制遷移となるため、寿命が長い準安定準位にある窒素分子について発生から消滅までの過程を追跡した。 レーザー誘起蛍光法を適用してシングルショットのレーザー照射で、準安定準位窒素分子の放電空間における2次元分布を可視化することに世界で初めて成功した。計測では、レーザー照射により一旦準安定準位から上位のエネルギー準位に遷移させ、そこから脱励起するときに放出される蛍光を2枚のマイクロチャンネルプレート(MCP)を装着したICCD(イメージインテンシファイアCCD)カメラで観測することで、放電プラズマで生成された通常発光しない励起窒素分子の放電空間における状況をリアルタイムでその場観測した。準安定準位にある窒素には多くの振動準位が存在するがエネルギーが最下位の準位から順番に4つの準位を調べた結果、上準位から脱励起されて最終的に落ち着く最下位の準位ではなくその一つ前の過程として経由する振動準位v”=2やv”=3からの蛍光強度が強く観測され、多くがこれらの準位に存在することがわかった。 通常の放電発光する励起窒素分子の放電空間での挙動と比較することで、準安定準位の窒素が長い寿命により拡散性を示すことで広く空間に分布することを明らかにした。さらに、放電後の時間推移、圧力の影響、雰囲気ガスである窒素に酸素を混入したときの影響を調べた。観測の成功は、通常の放電よりもストリーマの発生が固定化された場所で起きるように制御された放電形式であること、さらには通常使用されるICCDカメラでは到達できない検出感度の高い2ステージMCP搭載のICCDカメラの利用にあることが要因として挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シングルショットのレーザー誘起蛍光法により準安定準位窒素分子の2次元分布を可視化することに世界で初めて成功した。これまでは100発以上のレーザーを照射して、1発のレーザー照射ごとに検出される微弱な蛍光を積算して有意な信号強度とする通常のマルチショットによるレーザー誘起蛍光法で観測を行っていた。この手法であっても世界の研究者が通常用いている光電子増倍管による信号強度としての観測とは差別化できるものであったが、今回はさらに一段と観測レベルをあげることが可能となった。すなわち毎回の放電で異なるストリーマ放電の経路に対応して生成する窒素の準安定準位の分子の存在領域を調査することができる点が優れていると言える。この点についてはシングルショットとマルチショットの両方の計測を行い、両者の違いを画像から鮮明に示すことができた。これまで筆者らが取り組んできたレーザー誘起蛍光法において、ICCDカメラで観測する手法が、観測実績のなかった窒素の準安定準位分子に対しても確立されたことは意義深い。今回のこの成果は、計測に関する国際誌としては評価の高い”Measurement”に掲載された。その論文掲載において審査された査読者からも高い評価を得た。現時点において、成功の要因が明らかになり、その適用をさらに拡張することが望めるため、今後の研究の大いなる展開に有効活用できる手法となった。 さらに、研究初年度に導入した新たなナノ秒波長可変レーザーとして光パラメトリック発振器(OPOレーザー)を使用できる環境が整備されたことで、これまで使用してきたエキシマレーザー励起の色素レーザーによる励起光とOPOレーザーによる励起光の特徴の違いによる新発見や両者の組み合わせによる新たな計測の展開を実施することが準備ができている。
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今後の研究の推進方策 |
放電プラズマによる励起窒素の利活用を促進するこれまでにない手法の確立を目指す。現時点ではシングルショッのレーザー誘起蛍光法により準安定準位窒素分子の放電プラズマ空間における時間的・空間的ダイナミクスをストリーマのミクロンオーダーのスケールにおいて計測することが可能となりつつある。準安定準位窒素分子の生成過程・進展状況・他分子との反応から消滅までを包括的に明らかにする。これまで観測に成功している振動準位v”=2以外のより多くの振動準位での分布を明らかにする。加えて実時間(リアルタイム)での放電過程を追跡することで、各準位における生成と消滅の過程を解明し、励起窒素分子の密度推定の精度を高めて、反応モデルを提案する。 特に、今後の推進では、寿命の長い準安定準位の窒素に光エネルギーを注入することにより、再励起できれば、準位間でのレジリエンス(回復的)作用により放電プラズマの革新的な反応制御法となることが期待できるため、その可能性について探索を行う。研究1年目から取り組んでいる放電と光を融合させる装置を完成させる。紫外LED光源を放電と融合させて、励起窒素の再励起に活用し、放電と光との相乗効果を調べる。紫外領域の光とパルス放電の同期化を行い、ナノ秒オーダーの計測用パルスレーザーを放電発生や光入射のタイミングと同期させ、放電と光の融合による新奇な反応場が実現できるのかを調査する。光については紫外LED光源だけでなく、本科研費で導入したエネルギーの大きなナノ秒波長可変レーザーも利用できる環境が整ったので、LIF計測への使用だけでなく放電と重畳させる光源としての活用も進める。 さらに、気中から水との界面までの周囲媒質が及ぼす影響を調べ、放電プラズマが空気・水の環境に及ぼす機能を格段に向上させるための指針を検討する。計測により励起窒素の空気・水の環境での役割の解明を中心に進める。
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