研究課題/領域番号 |
21H01343
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉田 敬 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (30380588)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 磁気マーカー(磁性ナノ粒子) / 交流磁化 / 高調波磁化 / 磁気緩和 / 磁気的免疫検査 |
研究実績の概要 |
磁気マーカーと結合したバイオ物質を定量検出する磁気的免疫検査は、迅速かつ高感度な免疫検査法として、その開発に大きな期待が寄せられている。しかし、磁気マーカーと検査対象でないタンパク質などとの非特異吸着は、検査精度低下の原因となる。本研究では、結合による流体力学径の変化を、高調波磁化信号を利用して推定するという独自な手法を立案・確立し、検査精度向上の阻害因子を磁気的に識別する手法を開発することを目的としている。本目的を達成するためには、溶液中の磁性ナノ粒子の複雑な磁化ダイナミクスを解明する必要があり、本年度の具体的な研究成果は以下の通りである。 1.液相および固相磁性ナノ粒子の磁化ダイナミクスの解明 本研究で想定している磁気的免疫検査は液相での検査を想定している。しかし、対象物が固定されている場合、もしくは、体積が十分大きい場合は固相状態とみなすことができる。この液相・固相の2状態での磁化ダイナミクスの違いを実験・数値シミュレーションより明らかにした。ネール磁気緩和が支配的な粒子においても、液相中では、磁化容易軸が交流励起磁界方向に配向することにより、固相の磁化特性と違いが生じ、免疫検査で検出信号として想定している高調波磁化信号が両者で異なることを実証した。 2.磁気異方性エネルギーの推定法の開発 磁性ナノ粒子の交流磁化特性は、磁気異方性エネルギーに大きく依存する。磁気異方性エネルギーの推定法は各種存在するが、室温での交流磁化の保持力から簡単に推定する手法を開発した。これにより、磁気的免疫検査に用いる磁性ナノ粒子の磁気的パラメータの簡単な評価方法が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の基礎となる磁性ナノ粒子(磁気マーカー)の磁化特性の解明および磁気的パラメータの推定法の開発を行った。この結果を基に、来年度は、提案する磁気的免疫検査法の開発に必要な要素技術である、磁気マーカーの粒径分布推定法の開発を行う予定であり、研究計画は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を達成するために必要な要素技術である、磁気マーカーの高調波磁化ダイナミクスの解明・モデル化を行う。また、これらの結果を基にして粒径分布推定法の開発を行う。具体的な研究課題および実施計画は以下の通りである。 1.磁気マーカーの高調波磁化ダイナミクス R3年度に引き続き、「高調波磁化の粒径dhおよび周波数依存性解明」のため、磁化ダイナミクスの実験、数値解析を行う。実験では、0.1Hz-10kHzに及ぶ周波数帯域での磁気マーカーの磁化信号の測定が必要である。これは市販の測定器だけでは計測することができず、本研究では、独自に開発してきた帯域10Hz-100kHzでの磁性粒子スペクトロスコピー(MPS)、低周波域(0.1mHz-10Hz)での磁気緩和測定器(MRX)で測定を行う。磁気的な免疫検査は液相で行われる。溶液中では、磁気マーカー自身の回転による磁化と粒子内の磁気モーメントの回転による磁化が同時に起こるため、非常に複雑な磁化ダイナミクス現象が起こる。本研究では、マイクロマグネティックス解析による高精度な高調波磁化ダイナミクス解析が必要不可欠である。これらの解析により、測定だけでは得られない詳細な高調波磁化ダイナミクスを解明するとともに、精度の高い高調波磁化のモデル化を行う。 2.磁気マーカーの粒径分布推定法の開発 上記1によって得られる高調波磁化モデルを利用し、粒径dhの推定法を確立する。高調波磁化モデルの逆問題を解くことで、粒径dhの分布を推定するが、この際、最適な交流励起条件(励起磁界強度,周波数範囲)を明らかにする。
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