研究課題/領域番号 |
21H01355
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀 豊 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (10778591)
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研究分担者 |
宮廻 裕樹 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (40881206)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生体分子システム / 確率システム / マイクロ流路 / 数理最適化 |
研究実績の概要 |
本年度は,生体分子システムの応答分布の過渡状態に着目し,揺らぎの動特性を解析・設計することにフォーカスを当て(1) 昨年度までに構築した定常応答特性の解析法の拡張,および(2)その実証用の細胞計測系の構築と検証を実施した. (1)については,応答分布のモーメント方程式に基づいて定常応答特性を解析するために開発した数理最適化問題を,動的な応答分布の設計に応用するための拡張を行い,数値例を用いて有効性の検証を行った.しかし,現在のアプローチでは最適化問題の変数が多く実用面での課題があることが判明したため,最初にシステムのパラメタ(反応速度定数)を変数として保存したまま方程式の次数を低次元化する方法を検討する方針に切り替え,モデル低次元化アルゴリズムに関する基礎的な成果を得た. (2)については,前年度までに,培養細胞に動的な化学的入力(正弦波や鋸歯状波様の濃度変化)を印加して,入出力応答の揺らぎを計測するための刺激入力装置に相当するマイクロ流体デバイスを作成していたため,今年度はその下流で細胞培養を行い,入出力応答の揺らぎを計測する実験を実施した.具体的には,マウス筋芽細胞(C2C12)をスライドガラスに接着した流体デバイス中で,アデノシン三リン酸(ATP)を含む緩衝液を入力した際のカルシウムイオン濃度の動特性を計測する系を構築し,前年度に構築した流体デバイスと接続して細胞ごとの入出力応答の揺らぎを計測する系を確立した.さらに,細胞内の反応機序に基づいて数理モデルを構築し,モデルの出力が実験と定性的に一致することを確認した. これら(1), (2)に関連する研究成果をとりまとめ,国内外で学会発表を行い,国際誌に原著論文を出版した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた揺らぎの応答分布の設計法の開発については,定常応答特性の仕様に基づくパラメタ設計法の開発を完了している.過渡応答特性を仕様とする設計法については,当初想定していなかった計算量の面での課題があり実用上の問題があるが,それを解決するためのモデル低次元化の研究が順調に進捗しており,全体としては概ね順調である. 検証用の実験系については,入出力応答を計測する上で鍵となる入力生成装置(マイクロ流体デバイス)の開発が完了し,論文として発表することもできている.また,提案理論の評価に用いるための細胞をデバイス中で培養し,タイムラプス画像を用いて応答時系列を取得できている.さらに,取得したデータと評価に利用する予定の数理モデルの出力が定性的に一致することが確認できており,順調に推移している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,今年度開発したモデル低次元化法を利用して,生体分子システムの揺らぎのモデルを低次元化し,当初の目的である生体分子反応系の動的な入出力応答分布の解析・設計法の構築を目指す.また,提案法による低次元化モデルと元のモデルの誤差を事前に定量化できるように理論の拡張を目指す. 理論検証用の実験系の構築は順調に推移しているため,上記の理論構築と並行してマウス筋芽細胞のカルシウムイオン濃度の入出力応答計測データの取得を進め,理論検証に必要なデータを揃える.そのために,まずは昨年度までに得られた実験データ(揺らぎのある時系列データ)を定量的に解析するための計算機プログラムを作成し,実験データと数理モデルとの定量比較を行う.
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