本年度は,(1) 分子システムの応答分布(ゆらぎ)の過渡応答特性を解析するためのモデル低次元化法の研究を引き続き進め,過渡応答分布の解析・設計のための新たな数理的方法論を確立した.また,(2) 前年度までに構築した培養細胞の応答分布を計測する実験系,および大腸菌の遺伝子組み換えにより作成した遺伝子回路を用いて,動的な化学的入力を印加したときの分子システムの応答分布の実データを取得し,実データを用いてこれまでに構築した理論の検証・評価を行った. 具体的には,(1)については,分子システムのゆらぎのダイナミクスを記述する高次元の第一原理モデルと低次元化モデルの誤差上限を理論解析的に見積もる式の導出に成功し,提案法による応答分布の解析・設計の精度を理論的に保証する枠組みを完成させた.これにより,当初の想定とややアプローチは異なるものの,分子システムの定常・過渡応答分布の解析・設計法を確立するという本研究課題の目的を達成することができた.一方,(2)については,アデノシン三リン酸に対するマウス筋芽細胞(C2C12)のカルシウムイオン濃度の応答計測を本課題で構築したマイクロ流体デバイス内で行い,実データを用いてゆらぎの解析法の有用性を実証した.また,応答分布のパラメタ設計法の検証については,パラメタ調整可能な遺伝子フィードバック回路を大腸菌内に構築し,刺激応答に対する応答分布のダイナミクスをフローサイトメータで取得することで評価を実施した. 以上の結果の一部を取りまとめ,査読付きの国際原著論文と国際会議論文として投稿し採録された.
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