研究課題/領域番号 |
21H01359
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
トープラサートポン カシディット 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (00826472)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 強誘電体トランジスタ / 酸化ハフニウム / 酸化ジルコニウム / リザバーコンピューティング |
研究実績の概要 |
IoT社会に向けて膨大な時間変動データをエッジ端末で学習・情報処理する技術が強く求められる。本研究は、時系列データの機械学習を効率的に実行できるリザバーコンピューティングを、シリコンプラットフォーム上で実装できる(反)強誘電体トランジスタで実現し、低消費電力かつリアルタイム学習で処理可能な革新的AI技術の基礎学理の確立を目指す。その目的を達成するためには以下の項目で研究を実施した。 (1)高性能な素子作製プロセスの確立:反強誘電性をもつジルコニアは、これまでの先行研究ではシリコン上で成膜されると反強誘電性を失ってしまうことが報告されていたが、本研究では成膜条件を最適化することでシリコン上でも良好な反強誘電性をもつジルコニア膜を成膜することに成功した。その結果、シリコン上の反強誘電体トランジスタの実証に成功し、良好な電流電圧特性のデバイスが確認できた。 (2)強誘電体トランジスタの動作の理解:強誘電体の諸特性が強誘電体トランジスタのメモリウィンドウにどのように影響を与えるかを明らかにすべく、コンパクトモデルを構築した。トランジスタに応用する強誘電体は、高い抗電界をもつこと、残留分極が誘電率と抗電界の積の3倍程度をもつこと、半導体との界面にトラップ電荷が少ないことが、大きいメモリウィンドウの強誘電体トランジスタを得るのに重要な要素であることがモデルから明らかになった。 (3)リザバーコンピューティング動作の信頼性:強誘電体トランジスタは動作中に高い電荷密度を半導体/強誘電体界面に誘起することで界面劣化が進み、不揮発性メモリ素子に応用する際に大きな課題として認識されている。一方で界面劣化にもかかわらず、随時学習によってリザバーコンピューティングの高性能を維持できることを実証した。これはリザバーコンピューティングは界面劣化の影響を大幅に低減でき、高信頼性の動作ができることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)高性能な素子作製プロセスの確立:反強誘電膜の作製および反強誘電トランジスタの作製がチャレンジングな課題だと思われていたが、成膜条件を最適化することにより作製に成功して研究計画が順調に進んだ。さらに、良好なサブスレッショルド特性、反強誘電性特有の単極メモリ動作、分極電流ピークの存在をはじめとする優れた電気特性も得られており、反強誘電トランジスタを用いたリザバーコンピューティングにすぐに取り組める状況である。 (2)強誘電体トランジスタの動作の理解:コンパクトモデルを構築したことで、強誘電体の膜性質が強誘電体トランジスタにどのように影響を与えるかが明らかになり、強誘電体トランジスタの静的な挙動を理解することができた。このモデルおよび分極ダイナミクスを反映するモデルを用いて今後のデバイス設計に用いることでより優れたデバイスを作製できる見込みである。 (3)リザバーコンピューティング動作の信頼性:当初予定していた強誘電体トランジスタを用いたリザバーコンピューティングの信頼性について多くの知見を得られ、さらに、強誘電体トランジスタの特性とリザバーコンピューティング性能との関係の基礎的な理解も深めた。
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今後の研究の推進方策 |
強誘電体トランジスタだけでなく、作製に成功した反強誘電体もリザバーコンピューティングに適用し、動作を実証する予定である。また、取り組んでいるリザバーコンピューティングの動作電圧がやや高く、低消費電力を実現するためには低動作電圧化を実現する必要がある。そのためには、現状の素子で動作電圧を低くした際にリザバーコンピューティングの性能がどのようになるかを調べつつ、強誘電体の薄膜化など素子の工夫を視野に入れる。さらに信頼性のもう一つの指標である保持特性も系統的に調べて、最適な動作条件や適した素子構造を明らかにする予定である。
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