本研究の目的は、(1) 植物の生長・枯死を直接計算し、(2) 観測とモデルを統合した正確なモニタリングができ、(3) 予測の不確実性を精緻に定量化し、(4) モデルが直接解像出来ない「地域の実情」に即した危険度指標を算出する、ことのできる先進的な干ばつ監視・予測システムの開発を行うことである。このようなシステム開発とその応用を通じて、農業干ばつ予警報の理想形を追求し、開発途上国をはじめとする干ばつリスクの高い地域の持続可能な発展に貢献する。 当該年度においては前年度までに概ね完成している陸域データ同化システムの出力と、社会統計を結びつけ、生態水文量の低下がもたらす社会インパクトを定量化した。干ばつ災害が生じた位置を正確に把握することのできる最新の災害データベースを効果的に用いて、シミュレーションで計算した生態水文量と実際に起こった災害を結びつける関数をデータ駆動型アプローチで見出す。これにより、「農業干ばつ危険度」の算出を可能とした。 特に、あまり水文気候学的にはあまり大きな干ばつ災害が起きているようには見えないにも拘わらず、災害データベースで大きな干ばつ災害が記録されているようなイベントに注目し、地域ごとの紛争や不安定な経済、移民によって引き起こされる干ばつ脆弱性を定量化することに成功したことが大きな進捗である。 このような成果に加えて、陸域データ同化システムの出力が宇宙航空研究開発機構の正式な研究プロダクトとして公開されることも決まり、オーブンサイエンス的なアプローチで農業干ばつの監視と予測に取り組む体制も整いつつある。
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