研究課題/領域番号 |
21H01435
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
入江 政安 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (00379116)
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研究分担者 |
霜鳥 孝一 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境保全領域, 主任研究員 (50593688)
中谷 祐介 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20635164)
岡田 輝久 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 主任研究員 (40817962)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 貧酸素水塊 / データ同化 / 4次元変分法 / 二重数 / 溶存酸素 / 流動水質モデル / 貧酸素化 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
本年度は4次元変分データ同化シミュレーションによって得られた水質モデルのパラメータ推定値を用いることにより,水質モデルのパラメータ設定に起因する再現予測性能の低下を極力排除した上で,将来気候が貧酸素水塊の象徴に及ぼす影響を評価した.RCP8.5に基づく将来の気候変動による水温上昇は,春から夏季にかけて貧酸素水塊の早期拡大を引き起こし,6月の月間累計体積は現況に比べて63%増加することが示された.また,現況と比べて鉛直方向への発達ペースが速く,その要因は一次生産の増加,および水温上昇に伴う無機化によるDO消費量の増加であると考えられた.また,将来気候では湾奥中層における貧酸素水塊の急激な拡大や,盛夏の体積の縮小が起き,貧酸素水塊の面積より体積,つまり水柱全体の空間分布によって評価する重要性が示唆された. また,室内実験により植物プランクトンの減少速度とその間の酸素消費量を推定することで,水質シミュレーションの再現性向上を図った.実験値を活用した3次元流動水質シミュレーションでは,酸素窒素比(結果的に炭素窒素比)が大きい程,また呼吸速度が小さい程,過飽和状態を再現できた.溶存酸素濃度の急激な日変動を再現するに当たっては,呼吸速度よりも炭素窒素比を変更した方が容易に再現性を得やすいことを示した. さらに,湖沼モデルの精度向上を図った.浅水湖沼における底層貧酸素化を招く水温成層構造の数値再現性を向上させるため,底面を非断熱とする湖沼モデルを構築しているが,非断熱モデルは断熱モデルと比べて,底面の孤立した冷水塊をより再現可能とし,結果として,モデル改良が貧酸素水塊の再現性向上に寄与した.また,日成層は一時的な溶存酸素濃度低下を招き,それが継続することによって貧酸素化し,逆に風応力により容易に底層溶存酸素濃度が回復することを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大阪湾における解析においては,データ同化手法を用いた解析精度の向上が図れており,順調である.データ同化の湖沼への適用については展開が不十分であり,今後の鋭意進めたい. 気象変化の影響評価においては,やはり多くの場合で同時に発生する河川流量の増加と風速の増加に起因する影響を切り分けることが難しく,課題となっている.より詳細な解析のため,当初の計画にはない大気モデルの導入を図っている.さらに,新たに湖沼に適した流動水質モデルを導入し,モデル間比較を行い,モデルに起因した再現性能の低下がないか,検討を重ねている.また,室内実験で2年目に実施した内容は精度上の課題もあり,十分な成果が得られず,実験方法の見直しを行っている. 申請時に想定していなかった為替の変化や物価の高騰があり,主に現地調査や消耗品の購入に支障が生じている.当初予定していた現地調査の回数を減らし,代替可能な室内実験を増やすことで対応している.
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今後の研究の推進方策 |
沿岸域における検討では,データ同化の適用例を増やし,気象変化の影響評価結果の不確実性を低減させる手法の構築を図る.湖沼での検討においては,酸素循環に大きな影響を与えている水草,藻類の酸素生産・消費機構を他の物質の生成・消費と合わせて解析を進め,解明を図る.特に,昨年度までに構築した,藻類による酸素の生産消費の現地での直接計測法をより多くの回数,沿岸域,湖沼双方に展開し,調査を実施する予定である. 現在,複数の湖沼向け流動水質モデルを使用しており,今後,モデル間比較を通じて,モデルに起因する再現性低下を明らかにする.これにより,湖沼に適したモデル選択法について議論を深め,モデル選択の要点などの整理と提案を行っていく. 本研究は,本邦における貧酸素水塊の発生機構の解明や酸素構造の気象変化に対する応答を明らかにすることだけを目的としておらず,世界的にも今後増加するであろう貧酸素水塊の数値解析や将来予測に耐えるモデル開発,解析の方法論の提案も目的としている.3年目に入り,特に後者の目的に沿って本研究の結論をまとめていくために,方法論の整理も始めたい. 引き続き,論文投稿などを進め,研究成果の公表に努める.
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