研究課題/領域番号 |
21H01517
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西澤 泰彦 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (80242915)
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研究分担者 |
永井 康雄 山形大学, 工学部, 教授 (30207972)
砂本 文彦 神戸女子大学, 家政学部, 教授 (70299379)
青木 孝義 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 教授 (10202467)
小松 尚 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (80242840)
角 哲 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 准教授 (90455105)
湯澤 規子 法政大学, 人間環境学部, 教授 (20409494)
服部 亜由未 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (70708370)
橋寺 知子 関西大学, 環境都市工学部, 准教授 (70257905)
安野 彰 日本工業大学, 建築学部, 教授 (30339494)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 鉄筋コンクリート造 / 混構造 / 耐震 / 耐火 / 耐風 / 象徴化 / 大規模化 / 近代日本 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究目的にしたがってRC造公共建築物の特徴把握の後半をおこなった。具体的には、病院、図書館・博物館・美術館を中心に、耐火・耐震・耐風性能の視点、RC造建築物が持つ文化的、社会的側面に関する視点に基づき、詳細な個別情報の把握を進めた。さらに、「公共施設のRC造化相関図」の作成を試みた。 これらを進めるため研究代表者・分担者による研究会を4回(オンライン3回、対面1回)開催し、公開シンポジウムを2回開催した。研究会では、調査の進捗状況の確認と、対象物への評価方法、評価内容について意見交換をおこない、複眼的で総合的な評価を進めることとした。 シンポジウム「(関東大震災前後のRC造建築物を考える(その2)」(2024年2月13日)を開催し、公共施設のRC造化の意味、意義を検討した。報告は、安野 彰「東京以外のRC造小学校ほか」/橋寺知子「近畿の病院建築事例について」/永井康雄「山形市及びその周辺におけるRC造の早期事例」/西澤泰彦「地域が建てたRC造校舎・講堂の例」。シンポジウムでは、公共施設のRC造化について、耐火、耐震に加え、災害対応として耐風があり、地方都市、農村地域での市町村も積極的にRC造の公共施設を建てて行った事実は、RC造建物が先進性のある建物として認識された現れである、という指摘がなされた。 また、科研B「公立学校・廃校をコミュニティ・ハブに転換する計画・運営・プロセスとその評価指標」(代表:小松尚、22H01662)との合同シンポジウム「学校建築の鉄筋コンクリート造化と地域拠点化」(2023年12月11日)を開催し、双方3名ずつの報告と意見交換をおこなった。本科研からは、砂本文彦、角哲、橋寺知子の3名が報告した。このシンポジウムでは、本科研の参加者から校舎のRC造化を耐火、耐震の視点だけでなく、教室不足という教育環境の改善という視点を考える必要性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は研究会を4回開催(オンライン3回、対面1回)し、また、対面によるシンポジウムを2回開催した。その結果、研究代表者・分担者との間で情報共有が進み、具体的な議論が深まった。その結果、昨年度までになかった知見として、1)公共施設のRC造化を考える上で、防災の視点に立つと従来指摘される耐火、耐震に加え、耐風の視点が必要、2)公共施設にRC造建物が先進性のある建物として認識された現れであること、さらにそれが施設の大衆化と並行していたこと、3)地方都市だけでなく農村地帯の町村が建てる公共施設にもRC造化が進んでいたことは、RC造建物の建設技術も地方へ伝播していたことを示すものであること、の3点を得た。さらに、科研B「公立学校・廃校をコミュニティ・ハブに転換する計画・運営・プロセスとその評価指標」(代表:小松尚、22H01662)との合同シンポジウムにて学校校舎を複眼的に見た結果、4)学校校舎をはじめとして公共施設の持つコミュニティ・ハブとしての性格がRC造化を促進した、という知見を得た。 なお、「公共施設のRC造化相関図」について、すでに試作した公会堂の相関図を参考に、独立した3軸を設定すると、庁舎:大規模化・耐火耐震化・象徴化、図書館:耐火耐震化・大規模化・大衆化、病院:大規模化・複合化・耐火耐震化、という具合に施設の用途によって軸を変える必要性があることが判明したが、作図については作業が続いている。特に、3軸設定について、従来の研究が指摘してこなかった「大衆化」は、不特定多数の一般市民が使う公共施設ならではの現象として位置付けられるが、同時にそのような施設をRC造化する社会的意味も存在すると考えられる。 以上により、今年度の目標であった図書館・博物館・美術館、病院、の情報収集と評価軸の設定については、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2021年度と本研究の第2段階(2022~2023年度)の成果を受けて、RC造公共建築物の再評価を試みる。具体的には、「1910-50年代RC造公共建築物一覧」の補足、修正もおこないながら、官庁舎、学校、病院、図書館・博物館・美術館、公会堂について再評価をおこなう。評価指標は、建築の耐火性能・耐震性能・耐風性能の確保という建築技術と防災に関する視点、さらにRC建築物が持つ社会的役割と文化的側面の視点を基に提示していく。また、多様な評価指標を設定することで、評価に客観性を確保することを目指す。そして、これらをまとめた「1910-50年代RC造建築物評価一覧」を作成する。 さらに、それを視覚化するため、現在制作中の公共建築物の種別「公共施設のRC造化相関図」を完成させる。すでに試作した公会堂の相関図を参考に、独立した3軸を次のように設定する。庁舎:大規模化・耐火耐震化・象徴化、図書館:耐火耐震化・大規模化・大衆化、病院:大規模化・複合化・耐火耐震化、である。この相関図は外国語にも翻訳する予定である。 これらを進めるため、オンライン開催を含めた研究会を5回開催するとともに、研究成果の社会還元をはかるべく、公開シンポジウムを開く。2024年度は、「RC造公共施設の再評価」を開催予定である。また、2023年度に引き続き科研(B)公立学校・廃校転換研究班(代表:小松尚)と学校をキーワードとした合同のシンポジウムを開催する予定である。 2025年度は、2021-2024年度の成果も合わせて、まず、公共施設ごとにRC造化過程を提示する。その後、それらを統合した公共施設全体のRC造化過程モデルを提示する。また、研究概要を英語、中国語、韓国語に翻訳しHPに掲載し、公共施設に関心のある韓国・尹仁石(成均館大学校)、台湾・黄俊銘(中原大学)を招き、国際シンポジウムを開催する予定である。
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