研究課題/領域番号 |
21H01527
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今村 太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30371115)
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研究分担者 |
李家 賢一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20175037)
横関 智弘 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50399549)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | モーフィング翼 / 風洞試験技術 / 流体構造連成解析 / 低レイノルズ数流れ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、申請者らが提案する「空気力を受動的かつ積極的に利用する新しいモーフィング翼型」について、先行研究で得た変形特性ならびに空力特性を踏まえ、より空力・構造の観点で優れた形状・機構を提案することである。以下に、2021年度に取り組んだ3項目についてまとめる。 1)翼厚比12%の翼型を基準とした新しいモーフィング模型の製作に取り組んだ。従来は、柔軟な素材からなる翼上下面とベアリング接続したスポークからなる機構を実現するため、比較的翼厚比の大きい翼型(翼厚比24%)を採用していた。新しい模型は柔軟な素材(ゴム状)の印刷が可能な三次元プリンタを導入したことにより、柔らかい機構が一体製作され、模型の製作精度も向上した。新しい模型を用いた風洞試験を通じて、意図する空力性能向上及び変形特性を有することを実証した。 2)研究室が所有する風洞を用いた試験方法の向上に取り組んだ。以前の風洞試験計測の結果では、翼型が発生させる揚力の傾き(揚力傾斜)が理論値と大きく異なっており、その原因が特定できていなかった。精密な金属製模型を製作し風洞試験を行った結果、主要因が風洞壁補正で説明でき、副次的な効果として三次元プリンタによる製作に伴う表面粗さが影響していることが明確になった。この知見は、数値解析による受動的モーフィングデザインにおいて必須となる、風洞試験と比較において重要なものである。 3)表面圧力係数計測模型を用いた表面圧力計測やオイルフローを実施し、基準となるNACA0012翼型(剛体)周り低レイノルズ数流れの理解を深めた。翼表面における剥離(層流剥離泡)や失速パターンが明らかになり、既往研究の結果と定性的に一致した結果が得られ、風洞計測技術が向上した。また、製作した後縁受動的モーフィング翼の空力性能の向上は、層流剥離泡の消失に伴うものであることが予期される結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は,A)新しい後縁モーフィング翼型のデザイン,B)前縁モーフィング機構のデザイン,C)デザインを支える技術の構築、の3つの大項目からなる。研究1年目の2021年度はA)とC)に取り組んだ。なお、B)前縁モーフィング機構のデザインについては、発展的な内容であることから,2年目以降に取り組む予定であるが、A)及びC)を実施したことにより新しい着想を得ることができた。 A)については、機構としては以前製作していたものと同じであるが、三次元プリンタを用いた一体製作が可能になったことから、模型の歪みが減少し、模型製作精度が向上した。複数の三次元プリンタを用いた模型製作を通じて、その得失も明らかになった。次年度以降の模型製作に随時反映させる予定である。また、以前はベアリングを用いており非常に柔らかい模型であったが、三次元プリンタを用いた機構になったことにより変形に対して適度なダンパーが作用し、通風中における自励振動が解消された。今後様々な内部機構を検討する上での基盤を構築できた。 C)については、研究室が所有する風洞における風洞壁補正法の確立、NACA0012翼型周りの低レイノルズ数流れの理解、といった基礎を確認できた。現在設計している受動的モーフィング翼模型の空力性能向上が、層流剥離泡の有無に起因していることが示唆される結果が得られた点は大きな進歩であると考える。また、数値解析においては、最終的な流体構造連成解析に向けて、従来のAutodesk Inventorの線形解析ソルバーに代わり、MSC Marcを用いた非線形解析の可能性について検討した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度終了時点で、当初想定されなかった問題点などは発生しておらず、予定通りに推移している。2021年度の結果、風洞試験技術全般の向上,計測データに対する信頼性向上した。また、基準となるNACA0012翼型周り流れの理解が深まった。この結果を元に、以下に述べる3項目について重点的に取り組む A)新しい後縁モーフィング翼型のデザイン:後縁受動的モーフィング機構がより効果的に働くような翼型について検討する。2021年度に実施した翼模型表面圧力分布の結果から、翼後縁部分においては必ずしも上下面の圧力差が十分にある状況ではないことが示された。後縁部分においても上下面に十分な圧力差が生じる翼型を採用する事により、より効果的に、後縁受動的モーフィング翼型の流れに逆らった変形を引き出すことが期待される。 B)前縁モーフィング機構のデザイン:後縁モーフィング機構に取り組んだが、前縁モーフィング機構についてもその可能性について検討する。一般的な翼型においては、前縁部の方が後縁部より上下面の圧力差が大きい事から、より効果的かつ受動的な変形が期待できる。 C)デザインを支える技術の構築:流体構造連成解析に取り組む。風洞試験結果に基づく検討を行うためには模型製作から風洞試験の実施まで、一形態の評価に数週間の時間を要する。より多くのモーフィング機構について検討するためには、風洞試験と合わせて、流体解析と構造解析が連成する数値解析技術の構築が必要である。一部2021年度に検討を始めた構造解析手法についても引き続き検討を継続する。
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