研究課題/領域番号 |
21H01528
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中谷 辰爾 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00382234)
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研究分担者 |
津江 光洋 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50227360)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | メタンロケットエンジン / 超臨界 / 分光計測 / データ駆動型アプローチ / 振動燃焼 |
研究実績の概要 |
本年度は,亜臨界状態における微粒化特性に着目して実験を実施した.ピントル型インジェクタにおいて,スリット型およびスポーク型のインジェクタに対して,水を推進剤として噴射し,影写真法を用いて噴霧角の広がりを調べた.推進剤の全体運動量比の増大により,スリットタイプのインジェクタにおいて噴霧角が広がる傾向が示された.一方でスポークタイプの場合,広がり角の変化がスリット型と比較して小さかった.同時にウェーバー数を変化させて噴霧の分布を計測した.その結果,全体運動量比を1.0程度で固定した場合,ウェーバー数が大きくなるにつれて噴霧が均一化する結果が得られている.同時にレーザー干渉画像法を用いた液滴径分布の測定を行った.スポークタイプにおいては,全体運動量比の増大に伴いザウター平均粒径が大きくなるが,スリットタイプの場合は大きな相関はなかった.一方で,全体運動量比を1.0程度で固定した場合ウェーバー数の増大により,ザウター平均粒径が小さくなった.これらの影響を考慮し,燃焼試験を実施した場合のC*効率を調べた.全体当量比が全体運動量比1.18付近にピークがあるのに加え,ウェーバー数が増大するにつれてC*効率は下がる傾向が示された. 大気圧のメタン/空気を用いたバーナー試験により,OH*化学発光のスペクトルに対して分光器を用いて測定を行った.火炎温度を変化させることで,スペクトルの変化を求めた.温度の変化および反応帯近傍において,これらのスペクトルが大きく変化することがわかった. また,メタン/LOxを推進剤とするピントル型噴射器を用いたロケットエンジンモデル燃焼器内の燃焼挙動の数値解析において,本年度はRK-PR実在気体方程式を用いた熱物性値評価アルゴリズムの構築を行った.上記の状態方程式を組み込んだ数値計算結果は,超臨界環境におけるメタンおよび酸素の熱物性値の文献値と概ね良い一致を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,液体メタンおよび液体酸素を推進剤とする超臨界状態における燃焼挙動を調べることを目標としてきた.しかしながら,共同研究先のインターステラテクノロジズの推進薬供給設備を始めとする実験設備の構築が遅延しており,超臨界条件における実験の実施ができていない.エタノール/液体酸素を用いた亜臨界状態の計測と水を推進剤とした計測に限定されている.一方で,亜臨界状態における計測においては,噴霧形成に及ぼす様々な知見が得られており,順調に研究が進捗している. 超臨界における計測においては,高圧高温のため大きな可視化窓を用いた計測が限定される.そのため,小さな窓を用いた多点分光計測の実施が考えられる.その手法確立のため,メタン/空気混合気バーナー火炎に対し,OH*の振動-回転スペクトルを測定することで燃焼状態を測定する手法を考案した.概ね振動量子数の変化における基礎特性を把握することができた.反応帯近傍および他の高温ガス領域において,ボルツマン分布に従う,従わない領域が示されており,振動-回転スペクトル挙動の定性的特性が明らかになった.今後の温度測定や発熱量分布測定に応用できる.これらの計測は順調に進捗している. 超臨界を考慮した数値計算モデルの構築においては,RK-PRの実在気体の状態方程式を考慮した数値計算アルゴリズムが構築されており,概ね順調に進んでいる.これらの状態方程式を組み込んだ,圧力ベースの数値計算シミュレーションを実施しており,対向流場における数値計算やピントルインジェクタを用いた数値計算の予備計算が実施されており,順調に進捗していると考えられる. 以上より,順調に進捗している研究項目がいくつかあるものの,本来の目的である超臨界状態における実験計測が実施できていないため,研究の進捗はやや遅れていると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
超臨界条件の実験開始にはもう少し設備の構築に時間がかかると考えられる.そのため,本年度においては,亜臨界条件を中心に時系列画像を用いたOH*およびCH*化学発光等に対する機械学習手法を応用することで振動燃焼を解析する.物理ベースの機械学習手法の構築を中心に実施する.これらの手法は超臨界条件においても適用可能であるため,手法構築を優先して実施することとする.超臨界条件における実験機会を得た場合に,速やかに実施できるよう準備する. 本研究では,理論スペクトルと測定スペクトルを融合した計測法を提案する.超臨界条件において大きな光学窓を用いた計測は困難であると考えられる.そのため,ファイバーオプティクスを用いたOH*およびCH*などの化学発光の分光を実施し,エンジン内の状態を診断する手法の構築を行う.これらの化学発光スペクトルは電子励起に対して,振動-回転スペクトルを伴ったものであり,熱平衡であれば場の物理量を代表すると考えられる.しかしながら,化学反応による励起の影響もあり,反応帯近傍では熱平衡状態からずれている.これらの特性を利用し,熱平衡,振動および回転温度が非平衡の状態において化学発光スペクトルを理論的に求めることとする.あらかじめこれらのスペクトルを一定の間隔で求めておくことで,実験で得られたある振動量子数の変化のスペクトルを追跡することで,強度比等から機械学習手法を応用した温度空間への写像手法を構築する.それにより,分光器に高速度カメラを接続することで,高速多点分光が可能となり,エンジン内状態量推定手法の構築を実施する. 数値計算に関しては,引き続きRK-PR状態方程式を使用した,超臨界条件におけるメタンおよび酸素の熱物性値を考慮する.圧力ベースのソルバを用いて,遷臨界付近の密度などのパラメータの変化を誤差が少なく捉えられる数値計算アルゴリズムを試験する.
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