研究課題/領域番号 |
21H01533
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
各務 聡 東京都立大学, システムデザイン研究科, 教授 (80415653)
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研究分担者 |
竹ヶ原 春貴 東京都立大学, システムデザイン研究科, 客員教授 (20227010)
橘 武史 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 特命教授 (50179719)
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (90315169)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電気推進 / 水推進剤 / MPDスラスタ / 大規模宇宙輸送 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究目的は,1MWクラスのMPDスラスタにおいて電極形状が放電電流・電圧特性,性能(比推力や推力電力比)に与える影響を評価することである.2021年度までに,ノズルが電極を兼ねるノズルアノード型と,円環状のノズルとセラミックノズルを組み合わせた円環アノード型の二種類を試してきたが,推力電力比や推進効率が低くなった.文献などを精査した結果,気体推進剤MPD推進機のアノードにフレアを設けると,中性粒子とイオンの速度差が大きくなるイオンスリップがおき,性能が低下することが示唆されていた.そこで,従来の気体推進剤MPDの形状に倣い,アノードを円筒型にして実験を行った. セラミックノズル型アノードと円筒型アノードの二種類の試作機を製作し推力測定を行った.放電電力は,2022年度に製作した10 kA級pulse forming network (PFN)で供給したところ,放電電流10 kA,放電電力3MWまでの作動を実証し,大電力作動の可能性を示している.推力測定結果,比推力が最も高くなったのは放電電流10 kAの時であり,そのときの放電電力は両方とも放電電力が約3MWであった.一方で,性能は異なり,セラミックノズル型では比推力が3000秒,推進効率が7.5%,推力が14 Nであったのに対し,円筒型では,比推力が2300秒,推進効率が3%,推力4.5Nとなった.このように,性能はセラミックノズル型で高くなった. また,セラミックノズル型では,理論上,アノードカソードの直径比の増加により電磁推力が大きくなるはずである.しかし,推力測定を行ったところ,比推力や効率が直径比に伴って減少する傾向がみられた.そこで,高速度撮影によりプラズマを観察した結果,直径比が小さい電極では,放電がアノードの端面に付着し,アノード半径は設計よりも大きくなっていた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は,先述の通り,円環型,円筒型,セラミックノズル型の3種類の水推進剤MPDを試作し,電極形状の性能への影響を評価している.2020年度までに,200 kW以下で水MPDが作動することを実証して放電電流=電圧特性を明らかにし,2021年度は,放電電力2 kA以下,放電電力200kWまで性能を評価して,2NというMPDの推力としては他の推進剤に遜色のない性能を得ることを示し,また,アノード形状に対する性能の依存性を評価して電磁加速が作用していることを明らかにした.2022年度は,新しいpulse forming network (PFN)を用いて10 kAまでの性能を精査した.その結果,セラミックノズル型では放電電力3MWまでの,円環型では2.4 MWまでの作動を実証し,最高性能は,セラミックノズル型を10 kAで作動させたときに得られ,比推力3200秒,推進性能7.5%を得た.このように,様々な形の電極を用いてその性能を精査し,電極形状の最適化に近づきつつある. また,内部観察の準備も着々と進んでいる.先述の通り,10,0000コマ/秒の高速度カメラを用いてプラズマジェットの挙動を観測し,セラミックノズル型で理論と反する結果となった原因に関する知見を得るに至っている.また,放電電流がアノード内で偏在している様子が見られたことから,性能低下や電極の損耗の可能性が示されたため,放電電流を分散するような改良が必要だと考えられる. 以上のように,提案する推進機の性能を評価して3 MWでの作動を実証し,内部観察に資するさらなる高速度撮影を実施できたことから,おおよそ順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り,10 kA,3MWでの作動を実証しその性能を評価したが,比推力は3200秒と高いのに対し,推進効率は7.5%と低くなっている.この原因として,アノードにフレアを設けたことによるイオンスリップや,水滴の蒸発が律速であるために推進剤利用効率が低いことが考えられる.また,電磁加速が有利になるはずの円筒型がセラミックノズル型よりも性能が低下していたが,これは,セラミックノズル型では,セラミックノズルが,水滴の噴霧領域に放電電流経路を通るようにしているが,円筒型では,放電電流の経路の自由度が高く,水滴の噴霧領域と放電電流経路が離れていたことが原因と考えている.そのため,放電電流経路と水滴の空間分布に着目し,水滴の迅速で効率的な蒸発が必要であると考えられる.そこで,開口比を最小限に抑え,セラミックなどの耐熱性に優れた絶縁体を配置して放電電流経路を調整して,セラミックノズル型と円筒型の特徴を兼ね備えた電極を実現する.また,放電電流が偏在する傾向が高速度撮影により示され,性能低下や電極の損耗が懸念される.そこで,複数の噴射口を分散配置することにより,水滴の蒸発を促すとともに,アノード周りの放電電流密度の分散化・均一化を図る. また,放電プラズマの物理現象を解明するために,一秒あたり10万コマの高速度撮影に反応種ごとの光学フィルタ(酸素,水素,ラジカルなど)を適用して,放電プラズマ中における反応種を明らかにして,放電や蒸発が起きている領域,加速領域など蒸発や放電メカニズム解明のための知見を得る.以上の様な試作評価と内部現象の観察によって,推進機内部の現象に関する知見を得て,効率よく推進機の高性能化を実現する.
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