研究課題/領域番号 |
21H01542
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
増田 光弘 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00586191)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 新型錨 / 走錨防止 / 高把駐性能 / 実海域実験 |
研究実績の概要 |
2023年度は、主に1)実海域における錨と錨鎖の曳引実験、2)実海域用鋳造製新型錨の設計・製作、3)錨性能に関する諸規則の調査を行った。 1)前年度に引き続き実海域における錨鎖抵抗力を調査した。実海域実験は2回実施した。また、本年度は底質の柔らかい浦安沖と底質の硬い館山沖の2箇所の錨泊地にて曳引実験を行い、底質の違いが錨の把駐力ならびに錨鎖抵抗力に与える与える影響について調査を行った。それにより、まず錨効きは底質の違いによる影響を強く受けることがわかった。本年度実験海域とした浦安沖と館山沖では、一方では錨はほぼ効かず、一方では一般的に定められているような把駐力係数を示すといった具合であり、底質の違いは既存の文献に記載されている以上に底質の影響を強く受けることがわかった。また、錨鎖抵抗力については柔らかい底質では錨鎖の潜り込みが起こる影響で大きくなり、硬い底質では底質上を錨鎖が滑っていくことにより錨鎖抵抗力が既存の文献以上の性能を示すことはなかった。このことから、走錨海難の発生には底質の状態が大きな影響をもたらしており、走錨海難の防災減災を考える場合、錨泊地の堆積物の種類だけでなく、含水比等についても把握することが重要であることが本研究によって示された。 2)前年度までの研究成果を基に実海域実験用の鋳造製新型錨の設計および制作を行った。設計と製作は清本鉄工株式会社に協力いただいた。高い把駐性能を示した鋼板溶接製模型を可能な限り再現しつつ、鋳造製錨として十分な強度を持つよう設計および製作を行った。錨模型が小さいため錨模型の耐力試験は行えなかったが、試験片の落下試験や槌打ち試験、引張試験を行い、製品としての品質が十分であることを確認した。 3)新型錨を一般商船にも搭載可能とすることと、本来必要とされる錨性能に適合させた諸規則・要件とするために、現行の諸規則・要件の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の当初計画では、3年間は新型錨開発のための必要条件の整理および新型錨の設計開発、新型錨の性能検証を行い、その有用性および実用性を示すこととしている。2023年度までの研究によって、有望な錨形状を有する新型錨を開発することができ、鋼板溶接製ならびに鋳造製の2タイプの材質を有する水槽実験用・実海域実験用の錨模型を作成することができた。そのため、現在の研究の進捗状況としては順調に進展していると評価できる。ただし、実海域における錨鎖抵抗力が既存の考え方では正確に錨性能を評価できないことが本研究で明らかになったことにより、錨鎖抵抗力に関する調査を中心に検討する必要が生じており、2022年度より錨鎖抵抗力に関する曳引実験を中心に実海域実験を行ってきた。2024年度は、鋳造製新型錨模型の実海域実験を行う予定であるが、実海域実験は実施コスト、使用船舶の航海日程等の面で一年間の実施回数に制限があることから錨鎖抵抗力に関する調査が今後の研究の進捗に影響する可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、まず現行の錨に関する諸規則・要件の調査結果ならびに既存の錨に関する文献調査結果、そして2023年度までに得た本研究成果を基に本来必要な錨性能に適合した諸規則・要件の改定案について検討を行っていく。また、本研究によって錨鎖抵抗力についてもこれまでと同様の考え方では十分でないことがわかってきている。そこで錨と錨鎖による錨泊法についても新たな提言を行うことを検討していく。 次に2023年度に製作した鋳造製の実海域実験用新型錨模型による実海域実験を実施する。実海域実験は使用練習船の航海計画の都合上、10月以降の1~2回となる予定である。鋼板溶接製模型による実海域実験結果では新型錨の場合は底質による影響はほとんど受けないというという結果を得ているが、鋳造製模型の場合も同様の結果となるのかを調査するために可能であれば2回実海域曳引実験を実施し、異なる底質における実海域曳引実験を行いたいと考えている。2023年度の実海域実験成果から、底質影響は想定以上に大きく、これらの調査は必要だと考える。2024年度に十分な実験成果が得られなかった場合は、翌年度に更なる実海域実験を行う予定である。 また、2022年、2023年は錨鎖影響の調査に時間を費やす必要があり、また結論を導き出すに足る考察材料を得るのに時間を必要としたことから十分な研究発表、論文公表を行うことができなかった。2024年度は2022年度、2023年度に得られた研究成果を研究発表、研究論文の形で公表していく予定である。
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