研究実績の概要 |
本研究の目的は高性能繊維織物の紫外線ばく露による引張強度劣化を糸の物性及び織物構造から予測する手法の確立である. この手法を確立することで, 時間的・費用的に低コストで高性能織物の創造・設計・劣化予測が効率的に進めることが可能になる.本年度は紫外線ばく露の条件ための試験片条件を設定し, 紫外線劣化した混紡率の異なるアラミド糸の引張強度を測定した. 予備試験は糸に均一に紫外線ばく露できる試験片条件の設定を目的に実施した. 糸の間隔を間引きによって調節し, 糸の周方向の紫外線ばく露面積を変化させた. また, サンプルホルダに対する試験片の設置方向を変えることにより, 糸の長さ方向の紫外線ばく露面積を変化させた. 周及び長さ方向の紫外線ばく露面積の変化が与える影響を考慮し, 紫外線ばく露のための試験片条件を設定した. 間引き本数0から2本の間で引張強度の低下がみられ, 間引き本数が5本の時, すべての条件で強度低下が収束した. また, 糸の長さ方向の紫外線ばく露面積の変化に伴った引張強度の変化はみられなかった.以上の結果より, 均一に紫外線ばく露できる条件として間引き本数を5本とした. 試験片設置方向は試験あたりに得られる試験片数を増やすため, 短辺方向とした. 紫外線劣化した繊維混紡率及び番手の異なるアラミド糸の引張強度を測定し, アラミド混紡糸のUVに対する強度劣化モデルを検討した. 紫外線に対するアラミド糸の劣化指数αyは混紡率に基づく2つのグループに分け, 糸の強度劣化予測ができた. 繊維の混紡率, 番手及び構造が劣化指数αyへ与える影響を明らかにすることで, 更に正確に予測できる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,高性能繊維織物の紫外線ばく露による引張強度劣化を糸の物性及び織物構造から予測する手法の確立である.解決すべき課題は, 繊維素材の持つ紫外線劣化の特性,糸の性質(糸番手,構造),織物中の糸の力学的特性及び織物仕様(目付, 構造)のパラメータに起因する織物強度への影響度合いを明らかにすることである. 本研究は将来の織物の物性シミュレータへの応用のための基礎研究と位置づける.2022年度は, 紫外線ばく露をしたアラミド糸の引張強度を測定し, アラミド糸の紫外線劣化の特性を評価し, 糸の紫外線劣化モデルを検討した. さらに,紫外線劣化した糸と織物の強度を比較し, 織物構造に起因する引張強度への影響を確認した.最も準備に要した作業は,試験片作成における紡績糸への紫外線照射条件であった.予備試験において,紡績糸を横並びに配列し,試験片の作成を試みたが,引張試験の結果にばらつきを生じた.この要因は,均一の張力を糸に加えることができず,紫外線照射部位にばらつきを生じたと考えた.改良策として,織物の引張試験片を用い,紫外線ばく露範囲の緯糸だけを抜き出し,経糸だけの配列を作成することができた.ばく露試験用紡績糸を作成する手法を確立することができたことで,研究作業が費用・時間面に効率・効果的に実施することができた.
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