研究課題/領域番号 |
21H01627
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今井 宏明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70255595)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | バイオミメティック / バイオミネラル / 自己組織化 / 自己集合 / ナノ材料 |
研究実績の概要 |
研究目的は、多様な無機ナノブロックが任意な方位・サイズで規則配列した「メソクリスタル」を大規模化して実用的デバイスへと発展させ、多彩な融合機能を開拓することである。この目的を達成するため、2021年度の第1段階では、メソクリスタルの構成単位となる無機ブロックの合成手法の確立と配列手法の検討をおこなった。2022年度では第2段階として、(2-1)機能発現に適した結晶ナノブロックの配列制御、および階層的構造化と有機分子との複合化を試みるとともに、(2-2)デバイスの手本となるバイオミネラルを詳細に解析し、精緻な無機・有機複合構造に関する新たな知見を得た。 (2-1)ナノブロックの配列制御では、基板上での分散媒質の蒸発制御によって約10nmのナノキューブを数mmスケールで二次元および三次元に配列させることに成功し、さらに配列メカニズムを解明した。また、結晶成長プロセスの利用によって、リン酸カルシウムおよび硫酸ストロンチウム結晶においてナノロッドを単位とするメソクリスタルの構築に成功し、そのプロセスとメカニズムを解明した。機能面では、ハロゲン化鉛ペロブスカイトと有機配位子の階層的配向配列によって蛍光特性が大幅に増強できること、強誘電体と強磁性体ナノキューブの交互積層によって新規な磁気特性が発現することを明らかにした。これらの知見は、新たな融合機能材料の開発において重要である。 (2-2)大規模配列の手本とし、放散虫やケイソウの微細構造、巻貝や二枚貝の交差板構造、一部の貝類に見られる閉弁器官やサメの歯に見られる無機有機複合構造の着目した。これらのナノ構造の詳細な解析をおこなうとともに、複雑な階層構造の形成過程についての検討を進めた。特に、有機物を多く含む柔軟な層の存在が炭酸カルシウム構造体の柔軟性に重要であることを明らかにした点は実用的な材料デザインに有用な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 第2年度において達成すべきナノブロックの大規模の配列およびこれらの光学的・磁気的特性の評価が進められているとともに、手本となるバイオミネラルのナノ構造についても新規な知見が得られていることから、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。 ナノブロックが規則配列した「メソクリスタル」の実用的なデバイスへの発展を実現させるためには、第1段階としては、メソクリスタルの要素としての多様なナノブロックの設計・合成、第2段階として、ナノブロックの配列の高度化と特性の評価が求められていた。2021年度では、生体構造材料としてフッ素アパタイトや炭酸カルシウムのナノロッド、環境親和材料として硫酸ストロンチウムナノロッド、蛍光材料としてハロゲン化鉛ペロブスカイトナノキューブ、磁性材料として酸化鉄ナノキューブ、誘電材料としてチタン酸バリウムナノキューブ、光学材料としてシリカナノ粒子や粘土ナノシートの合成に成功していたが、2022年度では、多様な無機ナノブロックを数ミリメータの範囲で大規模に配列させるとともに、ハニカム状パターン内での集積にも成功した。さらに、配列性に由来する特異な機械的特性・蛍光特性・磁気特性も見いたしている。また、バイオミネラルにおける柔軟で高強度な炭酸カルシウムやリン酸カルシウムの階層構造の解析にも大きな進展がみられた。これらの成果や実験の進捗状況は、当初の予定とほぼ合致しており、問題なく研究が遂行されていることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の第3段階として無機ナノブロックの配列構造体のさらなる大規模化と階層化、および配列に由来する機能の評価に取り組む。具体的には、大型の有機フレームとして、コラーゲンやセルロースを適用するとともに、移流集積法や自己集積法などのナノブロック集積技術、および結晶成長技術を適材適所で活用し、三次元で数ミリメートルサイズの構造体の構築を目指す。特に2023年度では、特にフッ素アパタイトの三次元コラーゲンフレームへの階層的配向配列による歯のエナメル質やエナメロイド類似体の構築と機械的特性評価、ハロゲン化鉛ペロブスカイトと有機配位子の階層的配向配列によるフォトニック構造の構築と高輝度・高安定化への試み、コバルトフェライトとチタン酸バリウムナノキューブと有機配位子の規則配列体による新規な磁気特性の開拓を検討する。 階層構造の設計にあたっては、実際のバイオミネラルの構造のさらなる解析が不可欠である。2022年度で研究を開始したフレキシブルな炭酸カルシウムである閉弁器官やサメの歯のエナメロイドについては、機械的特性とナノ構造との相関を探るとともに、形成過程を調査し、類似体の合成に向けた基礎的な知見を得る予定である。
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