研究課題/領域番号 |
21H01642
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
本間 敬之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80238823)
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研究分担者 |
國本 雅宏 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60619237)
齋藤 美紀子 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 上級研究員(研究院教授) (80386739)
柳沢 雅広 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, その他(招聘研究員) (20421224)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 亜鉛負極 / 多階層モデリング / 表面増強ラマン散乱 / 大規模エネルギー貯蔵 |
研究実績の概要 |
本研究は、再生可能エネルギーの間歇性を補い、安定性が高く高効率な電力系統の運用を実現するにあたり必須となる、大規模蓄電池の電極としての利用が期待されるZn負極の表面上で生じる、異常形態析出現象を抑制する電解液組成開発を企図し、新規な添加剤の設計指針導出のための添加剤作用機構の解析と、それに向けた計測手法の開発に取り組むものである。21年度は特に計測・解析手法開発として、高精度分光計測用セットアップの構築、及び析出形態の理論的な解析を可能にする多階層シミュレーション用モデルの構築を推進すると共にそれらの応用に着手した。 分光計測の検討では、高精度ラマン分光を可能にする電解セルの開発、及び、その分光手法との併用を視野に入れた異常析出検出用電気化学計測手法の選定に取り組んだ。ラマン分光電解セル開発では、局在表面プラズモン共鳴の原理に基づいて電極表面近傍のシグナルを選択的に増強し電極界面の化学構造の情報を高感度に与えるプラズモンセンサの作成工程を最適化し、均一性と増強能の高いセンサを開発すると共に、それを実装可能とする三電極式電解セルを構築した。この分光法と併用可能な電気化学測定手法として、電気化学水晶振動子マイクロバランス(EQCM)法と電気化学インピーダンス(EIS)法が、異常形態析出検出に有用であることを新たに見出したため、今後これらを複合的に利用していく。 多階層シミュレーションモデル構築では、kinetic Monte Carlo(KMC)法のプログラムと、KMCに適用する速度パラメータ算出のための第一原理計算用原子運動モデルを構築した。構築されたモデルは、実測で得られる異常析出の初期形態を再現し、多階層計算手法としての本手法の有用性が立証された。また異常析出形態の発生が、析出Zn原子表面拡散の結晶面方位依存性に依拠することを見出し、今後のメカニズム解明に有用な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精度分光計測用セットアップ構築では、プラズモンセンサ作成工程を最適化しながらセンサ実装分光電解セルを開発し、さらにEQCM法やEIS法などの併用電気化学測定法を見出すことによってZn負極表面上の添加剤挙動を様々な情報源から検出可能な実測環境を構築した。センサ最適化では、センサ表面に修飾されているAgナノ粒子の形状、サイズ、密度の均一性を向上させた。このAgナノ粒子の修飾には、アスコルビン酸を還元剤とした無電解Agめっきを用いているが、アスコルビン酸濃度やAg源となる硝酸銀の添加濃度条件、ならびに前処理プロセスをそれぞれ最適化することによって数十nmサイズの修飾粒子を均一化させることに成功し、測定安定性向上を達成した。このセンサを実装する電解セル内部の構成として、測定対象電極表面への反応種物質移動が阻害されないよう電極がセンサと微小面積で点接触する機構を開発した。EQCM法やEIS法の試行では、それらの与える電気シグナルからも異常析出や添加剤効果の検出が可能であることが確認され、開発された分光電解セルも合わせ、本研究の目的を達成可能な実測環境の構築に至った。 異常形態析出の理論的な解析を可能にする多階層シミュレーションの検討では、KMC法のプログラム開発と、それに適用する速度パラメータを算出する目的で実行する第一原理計算の計算モデルを構築した。特に第一原理計算のモデル構築では、KOHをはじめとする溶質を伴った溶液構造の統計分布の算出、及びそれを基にした析出Zn原子の表面吸着構造と表面拡散中の構造の最適化を行った。この結果得られた種々の析出Zn原子表面拡散係数を適用してKMCシミュレーションを行ったところ、Zn表面上の異常析出形状が、それぞれの面方位における拡散係数の比に由来することが示唆されたと同時に、実測される異常析出の形成初期過程を再現するモデルの構築にも至った。
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今後の研究の推進方策 |
21年度に構築された、センサ実装分光電解セルを用いた高精度ラマン分光法を、EQCMやEIS等の電気化学計測と併用しつつ、第一原理計算によって算出の速度パラメータを適用したKMC計算による解析結果とも対照させ、Zn負極表面の異常析出制御において有意な効果を示すと報告される種々添加剤の作用機構を実際に解析していく。 添加剤の種類としては、Liをはじめとするアルカリ金属系や、Pb、Sn等の重金属系、またポリエチレングリコール等の有機高分子系からチオ尿素等の含硫黄単分子系等、様々な種類を念頭に置くが、検討の第一段階としてまずアルカリ金属系と重金属系に着目する。これらを含んだZn含有溶液を電解液とし、定電流電解などの標準的な電気化学測定から、EQCM、EISといった発展的手法までを駆使しそれらの効果を系統的に比較しつつ、特に効果の高いものに対して高精度ラマン分光分析を、前述の電気化学測定と併用しながら実施することで、電極動作中に示す添加剤の挙動や表面との相互作用様式を特定していく。またその分光計測の利用に際しては、高アルカリ電解液の系を対象とするため、センサの耐食性向上を企図した、センサ表面上への耐食保護膜被覆を新たに検討する。高精度ラマンとEIS測定との複合利用に関しても、作動条件下におけるEISの測定精度を向上させる実験条件の特定が現在課題となっているため、その条件最適化にも並行して取り組む。 多階層シミュレーションの検討では、特に析出Zn原子の拡散過程に対して上記添加剤が及ぼす効果の詳細を、界面における溶液構造や電位のもたらす効果と共に第一原理計算で解析しつつ、それに基づいて算出される速度パラメータを適用したKMCの結果を実測結果と対照させることで、電位を印加された界面の構造が及ぼす影響にも依拠しながら、実測結果を電子状態のレベルから説明する解析を推進する。
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